本日は2月14日。

都合のいいパラレルなので、ここオールドラントにもバレンタインという風習はある訳で。

波乱万丈な世の中でも、この日ばっかりはどことなく空気も穏やかだ。





そして私の手にも自作のチョコが簡単なラッピングをされ、握られていたりする。

自分で言うのもなんだけれど、結構上手くいったと思う。





「あーあ・・・」

私はそれを見て溜息をついた。

溜息の理由は、この街が恋沙汰で溢れかえっているからではなく、自分の性格と渡す相手を想ったから。



六神将の鮮血のアッシュ。

何だかんだで一緒に行動をしている私達。

渡す機会はいつでもある。



けれど普段の私達というのは、互いに本気ではないものの、いがみ合ってばかりだ。



「・・・反応が楽しみといえば楽しみだとは思うけど・・・」



もう一つの問題に溜息を再度吐いた。



「アッシュにはナタリア殿下がいるし」



ライバル・・・なのかな?は、キムラスカ・ランバルディア王国の王女。

それに対して私は、しがないのオラクル騎士団兵。

ナタリア姫のような気品や才覚もない。

あるのは剣の腕と第七音素と食い気と短気と守銭奴と時折感じるアッシュへの殺意と・・・言ってて虚しくなってきたからやめよう。


一国のお姫様が相手じゃあ、ハッキリ言って勝ち目がない。



「あーあ・・・」



しかも、その当人は今不在ときた。

自然と、本日何度目になるんだろう、溜息が漏れる。

どうせナタリア殿下と会っているんだろうな。

さっき、ルーク達がこの街に来るのを見たから。



何か、渡す前から失恋してる気分。

・・・近からず、遠からずそうなんだろうけど。



「宿屋に帰ろうかな・・・」



渡す事を諦めた私は、せめて自信作のチョコを食べようと思い、宿屋に足を運ぼうとした。





「おい!大丈夫か、アンタ!!」





一人の男の人の声が耳に入り、足を止めた。

「赤い髪の人が倒れてるぞ・・・!」

「泡を吹いてる」

「死相が出ている!誰か医者を呼べ!!」

「よく見ろ、オラクル騎士団の服だ・・・」

「盛られた毒に気付かないとは、マヌケだな・・・」



「・・・まさか・・・」



赤い髪のオラクル、という言葉から簡単に連想できる人物が脳裏をよぎり、駆け足で現場に向かった。

















「アッシュ?!アンタ何やってんの?!」

案の定、そこには真っ赤な髪を持つオラクルの六神将の一人、鮮血のアッシュが白目を向き口から泡を出しながら僅かに痙攣していた。

明らかに意識がブッとんでしまっているだろう、アッシュを気を付かせる為に双肩を掴み揺さぶる。

「駄目だよ、君!そんなに揺さぶったら!おそらく、これは毒だ・・・あまり揺らさない方がいい」

「え?!毒?!」

アッシュの足元に落ちているのはチョコ。

「・・・チョコ?」

拾い上げると、『ブショワァアアア』やら『ゴプッゴポッ』などと明らかに危ない音を立てた。

「お嬢さん、この人の連れかい?」

「は、はぁ・・・まぁ・・・・・一応・・・」

「早く医者に連れてってあげた方がいいよ」

「どうも、お騒がせして申し訳ありません・・・・・って、瞳孔開きかかってる?!アッシュ?!」
























今にも生命活動を絶たれそうなアッシュを宿の部屋のベッドに運び、ヒールとリカバーを交互に20回かけ、何とかアッシュは持ち直した。

「・・・気が付いた?」

目を覚ましたアッシュに溜息交じりに言葉を投げかけた。

か・・・ここは・・・」

「宿屋。アンタ、街中で倒れてたらしいけど、何やってたの?」

「・・・胃の中で超振動が起こったような感じがした」

「き、気のせいだよ、きっと」

私が揺さぶったせいで軽く悪化した事に罪悪感も持ち、目を逸らす。

「えーと・・・街の人の話だと、何か劇薬でも盛られたような苦しみようだったって聞いたけど」

「何だっていいだろーが、別に」

「ふーん・・・足元にチョコが落ちてたよ。誰かに貰ったの?」

ベッドのサイドテーブルに置いたチョコを一瞥してアッシュに尋ねる。

「・・・・・ナタリア」

「え・・・」

「アイツは料理が下手だからな」


いや、コレはもう下手の領域を軽く超越してる・・・!


「そ・・・そっか・・・アンタ、見かけによらず優しい・・・もんね」


街の学者が「生物兵器だ」と興味対象にしていた、そしてそれを食べたアッシュに感動をしていた、なんて言えやしなかった。


「なっ・・・!そんな訳ないだろ!」

「なに照れてんの」

「う、うるさい!!」



「・・・私もナタリア殿下みたいになれたらいいのに」



「なに言って・・・」

「な、何でもない!!」

思わず出てしまった本音に、急いで口を手で覆った。

「今ナタリアがどうとか言っただろ」

「言ってないって、言ってるでしょ?!」

「うぐぉ!!!?」

拳をアッシュの鳩尾に一発入れた。

「幻聴でも聞いたんじゃないの?!」

ベッドの上で鳩尾を押さえて転げまわるアッシュに向かってそう叫ぶと、私は部屋の外に飛び出した。


















「私のこういう所が駄目なんだろうなぁ・・・」

宿屋の屋根に上り、また溜息をついた。



ナタリア殿下のように、素直に渡せたらいいのに。



「ああ、全くだ」

呆れ口調で私の独り言に答えたのはアッシュ。

「げっ・・・!アッシュ・・・どうして、ここにいる事が分かった?!」

「馬鹿と何とかは高い所が好きというしな」

「何だとコノヤロ」

「そんな事より、落としていったぞ。このグズ女が」

「お前をこっから落とすぞ・・・って・・・?!」

アッシュの手にある、見覚えのあるラッピング袋に顔を青ざめた。

よりもよって、こんな王道な失敗をする自分に嫌気がさす。

「・・・・・いいよ。それ、あげる」

「馬鹿か、貴様」

途端に表情を歪めるアッシュ。

「何よ!!私が馬鹿なのは認めるけど、アンタなんて街のド真ん中で泡吹いて痙攣してたクセに!そっちのがよっぽど不名誉じゃん!」

「うるさい!!目撃者は全員葬るから問題などない!!」

「大アリだっつの!!鮮血のアッシュ?痙攣のアッシュに改名したら?!」

「ブッ殺すぞ!アホ女!!」

「返り討ちにしてやる!泡男!!」

「チッ・・・!渡したい相手がいるから、あるんだろうが!とっとと渡して来い!!」

「いいって言ってるでしょ?!」

「何がいいんだ!!」

「アッシュの為に作ったんだから丁度いいっつってんの!!」

「だったら・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「聞こえなかった?!今なら何回でも言える気がする!!アンタの為に作ったの!!」

「・・・・・最初からそう言え、馬鹿 !」

言われた事をやがて理解したアッシュは、目を泳がせ、やがてそっぽを向いた。

「貰ってくれるんだ・・・?で、でも、ナタリア殿下はどうなるの?!」

「貰わないと、悪いだろ・・・」

「まぁ、そうだけど・・・・・私も?」

「そろそろ日が暮れるから戻るぞ」

「オイ!シカトかよ!!まだ全然、日は沈んでないし!」

「うるさい!ナタリアからはチョコしか貰ってない」

「えっと・・・」


つまりは、気持ちは貰ってない・・・と言いたいのだろうか。


「アッシュ!・・・私は、ナタリア殿下みたいに素直じゃないし、それこそ馬鹿だし、気品なんてカケラもないけど・・・」




それでも、貴方の事が大好きです




「・・・行くぞ。とっとと来い」

アッシュはそう言うと、照れくさそうに手を差し出した。

「うん」

私はそのアッシュの手を強く握った。

































―あとがき―

別にバレンタインじゃなくてもいいようなネタに・・・!!
このサイトでのナタリアの料理スキルは本当に酷いです・・・すいません;