任務休みの昼下がり。
開いた窓からは心地よい日差しと風が入る。
同じく任務休みのと俺は、図書室で本を読んでいた。
ページを捲る手と同じように、ゆっくりと流れる時間。
千年伯爵との戦いに身を投じる俺達エクソシスト。
終りの見えない、終わるのは自分かもしれない、そんな自分達にとってこうした時間は貴重なものだ。
「世界は完璧だよね」
そう思わない?、唐突にが開いていた本を閉じてオレに問いかけた。
「急にどうしたんさ」
確かに、綺麗だと心奪われる景観はある。
それでもアクマがいて。たくさん人が殺されて。
オレ達がこうして戦って。
どこが完璧なのかと思った。
完璧なら、こんなに苦しむ事もないんじゃないのかよ。
「唯一完璧じゃないのは私達人間だけで、植物も、動物も実は完全で完璧なものだと思うの」
花は美しく咲き誇り。
風は大気を運び。
空はどこまでも続いていて。
海は全ての始まり。
土は自然を育む。
完璧で美しいのだと、は云う。
「例えば、木がなくなってしまったら、空気がなくて生きられないでしょ」
「土がなければ植物は育たないし」
「空や海。お日様もお月様も、いなくなったら誰も生きられないわ」
世界は自然界のバランスが均衡だからこそ、成り立っているのだ。
「でも、私達人間はいなくなっても、何にも変わらないの」
「どうしてだと思う?」
「つまりは、俺達が今こうして生きているのも、戦っているのは無意味って事が言いたいんさ?」
俺はただの記録者なのに。
記録者だからこそ、今を生きているにはそんな事を言って欲しくない、と思った。
「ううん。そういう訳じゃないの」
「完璧じゃないからとか?」
「ただ」
「ただ?」
「私は何で、ここにいるんだろうなぁ、って思っただけ」
。
お前の言う通り世界は完璧だと思った。
お前が死んで最初はみんな悲しんでたけど、俺らエクソシストは今日も任務でアクマを壊し。
科学班の連中は相変わらず死にそうな顔して働いてる。
お前がいなくなっても世界は何事もなかったかのように廻っている。
俺が死んでもきっと世界は何事もなく廻るのだろう。
お前の死に顔は眠っているようで。
皮肉にも、とても綺麗で。
完璧な存在だと思った。
「完璧な存在は、欠けたらいけないんじゃなかったのかよ」
確かにお前は完璧な人間じゃなかったさ。
でもそれは俺も同じで、だから一緒にいるものだと思っていた。
俺の中の喪失感はお前じゃなきゃ埋められなくて。
不完全な人間達は完全な存在を求め、"死"という形で完全な存在へと昇華されるんだ。
「世界は完璧で、とても美しいさ」