「いいなぁ、ラビ」

「へ?」

「私も一回でいいから男になってみたいな〜」




始まりは、 のほんのささやかな一言だった





































「は・・・?急にどうしたさ、

談話室の椅子にもたれ掛かりながら、目の前の椅子に腰掛ける少女、 に問いかける。

「だってさ、男の人って何かと優先されたりするじゃん。それに体力面とかでも結構、差があるし」

「そうか?」

「そう。ラビも一回女になってみれば分かるよ」

「いや・・・別になれないし、なる予定もないし、なりたいとも思わないし、それに・・・」

「それに?」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン☆」

唐突にオレと の間に現れたのは科学班室長のコムイ。

「コムイさん?!び、ビックリした・・・!」

「・・・コムイ、今時ジャジャジャジャーンはあんまり使わないんじゃ・・・」

「細かい突っ込みはしない!・・・それより、 君。今「男になりたい」って言ってたよね」

「え?あ、まぁ・・・はい」

「そんな の可愛い願いを叶えるステキなモノを用意したんだ☆」

「本当ですか?!」

「バク・チャンの育毛剤を造りのけた科学班に無理な事はありません」

親指を立て、ウィンクをしてポーズをとるコムイ。ハッキリ言って可愛くもなんともない。

「わー!見たいです〜」

「待て待て待て待て待て!!」

無邪気に声を上げ、コムイの後に付いていこうとする の肩を掴む。

「バファリ●の半分が優しさで出来てるのと同じで、コムイの半分は怪しさで出来てるんさ!」

「何言ってんの、ラビ・・・コムイさんは私の冗談に付き合ってくれてるだけだって」

そう笑って言い切る

は気付いていない。

あのコムイの目は科学者の目だ。ヤツのオレ達を見る目は、まるでモルモット(研究材料)を見るような目じゃないか。

「じゃあ、行こうか

「はいは〜い」

「ちょ・・・待つさ! !!」










「結局ラビも来たんだ?」

「あ・・・ああ・・・まぁ・・・」

怪訝な顔をする に曖昧な返事をして返す。


大体、そんな都合よくそんな薬がある訳がない。

もし、コムイが に実験と称して妙な事を仕出かしたら槌でブン殴ってやろう。

そう思って付いてきたまでだ。


「ハイ、これ飲んでみて」

そう言ってコムイが出したのはコップに入ったピンク色の液体。

本当に人が飲んでも大丈夫なのか心配になる。

「飲むだけですか?」

「そうだよ」

「明らかにピンクとかいって怪しいぞ・・・ 、やっぱり飲まない方が・・・」

そう言って を見ると、腰に手を当て豪快にそれを飲み干していた。

「・・・って、手遅れーーーーー!!!?」

「さっきからうるさいなぁ、ラビ。美味しいよ、コレ」

「へ?」

意外な感想に目を白黒させる。

「見た目、甘くて濃そうだけど結構さっぱりしてるし」

「ただの栄養ドリンクだよ。ホラ強靭な肉体と体力の為にはまず、栄養をしっかりとらなきゃ」

ラビも飲むかい?と言い、再びコップにピンクの液体を流し込む。

「・・・・・じゃ、じゃあ・・・」

一度唾を飲み込み、それを に続くように一気に飲み干す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・普通・・・だ」

が述べたような味で、多少甘みはあるものの後味が残る程でもなく、まぁ・・・普通だ。

「でしょ?」

「あ、ああ・・・」

「ラビ、ボクがエクソシストに毒でも盛るとでも思った?」


実質リナリー以外のエクソシストはどうでもいいと思っているクセに。


とんだ取り越し苦労だったと思いつつも、今日という日は終わった。
















―――翌朝


いつもは太陽が大方昇る頃に目が覚めたり、ジジイに叩き起こされるオレが、今日は珍しく窓から差し込んでくる眩しい朝日で目が覚めた。

やや重い瞼を開け、体を起こす。

顔を洗おうとベッドから降りると、ふと部屋の違和感に気が付いた。


教団で与えられる部屋は皆同じ造りをしているから、違いなんか分かるはずはないけれどな・・・

何か違う。

直感でそう感じた。


「まぁ、どうでもいいや・・・―――?!」

普段の自分とはかけ離れた高い声を発する喉に思わず手をやった。

あれ?オレってこんなに声、高かったっけ・・・?

頭の中で疑問符が大量に飛び交う中、丁度オレの足は鏡の前。

視線をずらし、鏡の中の自分を見やると、

「な、なな、何だコレーーーーーーーー!!!!!?」

鏡の中のオレは そのもの・・・いや、 本人だった。

部屋を見回すと、ハンガーに掛かっている団服が目に付いた。

それはいつも自分が着用しているものではなく、リナリーの着ているようなデザインの団服。

「まさか・・・」

一つの予感が脳裏を横切り、オレは部屋を飛び出した。










案の定、オレの部屋にはオレが寝ていた。(自分で言っておきながら頭が痛くなりそうだ)


気持ちよさそうに寝ているオレ。

オレってこんな寝顔だったんだな。


って、今はそんな事より。

オレが の中に居るという事は、答えは簡単だ。

オレの中に入っているのは で間違いない。

おもいっきり空気を吸い込み、出来る限りの大声と共に吐き出す。

!!」

「・・・・・は、はい!!」

突然の大声に目を覚ました

「・・・・・・あれ?・・・何で私が・・・私を起こしに・・・?あー・・・コレ夢だね。うん。寝るわ」

オレの姿を上から下まで見やると怪訝な表情をし、再び布団を被った。

「寝るな!!」

二度寝を決め込もうとするオレの姿の を布団から引きずり出した。

「うー・・・痛いんですけど・・・って事は夢じゃないのかな・・・」

「・・・鏡見てみろよ」

の目の前に都合よく持っていた手鏡を突き出す。

「うおぅ?!!何でラビ、鏡の中に入ってんの?!!」

「違う!!オレとお前が入れ替わってんさ!!!」

「・・・・・なぜに・・・?」

「・・・・・なぜにって・・・」

「「あ」」

ある一人の人物を思い出し、同時に顔を見合わせた。










「コムイ!!!どういう事だ!!!」

室長室を思いっきり開けて、優雅にコーヒーを飲んでいるコムイを怒鳴りつけた。

「あれ? 君、どうしたの?そんな声、荒げて」

「ふ・ざ・け・ん・な!!オレはラビだ・・・で、オレに入ってんのが ・・・分かるよな?」

「ああ、昨日のアレ?うわ〜アレ、本当に効いたんだ〜ボクってやっぱり天才?」

語尾に「エヘ☆」とつけるコムイ。その笑顔に右ストレートを激しく入れたくなった。

「ふざけんなーーーーーーーー!!どーすんだよ、この状況!!」

傍らで が「まぁまぁ」とオレを宥めようと試みるが、それではオレの感情は止まらない。

「さぁ?何とかなるんじゃないかな?」

「メチャ投げやりだな、諸悪の根源」

「大丈夫、大丈夫!試作品だしさ、どうせすぐ効果は切れるって」

「・・・本当だろうな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だって、うん。大丈夫、大丈夫」

「オイィイイイイイイイイイ!!!何だ、今の間はぁあああああ!!!!」

「ホラ、ね?予定は未定って言うし?」

「さっきと言ってる事が逆なんですけど!科学班室長さん?!!」

「あはは、 の可愛い姿で怒っても怖くないよ☆」

「嫌だ、も〜コムイさんv」

、頼むからオレの体で女言葉使わないで!!」

「取り合えず、今日一日様子を見て貰えるかな?それで元に戻らなかったらちゃんと考えるからさ」










半、無理矢理丸め込まれたオレは今、 と共に自分の部屋に居る。

「いや〜大変な事になっちゃったねぇ」

「・・・その割りには楽しそうだな」

「え、だって理由はどうあれ、一日でいいから男になりたいって願望は叶った訳だし」

ラビは被害者だけどね、と付け足す。

「あのなぁ・・・」

「あ、取り敢えず着替えないと」

「そういえば、そだな」

自分達がまだ寝間着を着ている状態である事に気付く。

「ラビ、団服出して」

はそう言うと、着ていたシャツを脱ぎ捨てた。

「へー。ラビって結構、筋肉ついてるんだね」

「どこ触ってんだよ!!」

団服とマフラーを の顔面に投げつける。

「へぶっ!!いったいなぁ・・・触ってんじゃなくて見てんの」

は床に落ちたそれを拾うと、オレがいつも着るように団服を着た。

「あのなぁ・・・」

「あ、私の体の着替えは私がやるから」

「は?」

「当ったり前でしょ?嫁入り前なんだから」


すると はどこに持っていたのか、目隠しの出来るリボンと団服を出した。

オレの目を隠し、器用に着替えを済ませていく。


「人の体は見たクセに・・・」

「何か言った?」

「・・・別に」

「じゃあ、着替え終わった事で、私は部屋戻るよ・・・って、何、内股になってんの?」

・・・お前いつもこんな短いヒラヒラ履いてんか・・・?」

あまりのスカートの短さに、自然と内股になるオレの姿に対し、 が笑いを堪えている。

いつか覚えてろよ。

「スカートって、見るのと履くのじゃ違うしね〜どう?初スカートは」

「妙な言い方すんな!」

「まぁ、性別が逆転なんて滅多に体験出来る事じゃないんだからさ☆」

赤面するオレを見て、今度こそ笑いながら去っていった。





が去ったと同時に、ベッドに座り込み盛大な溜息をついた。


確かに、言われてみれば自分とは逆な性別になるなんて普通に生きていれば、まず有り得ない出来事だ。

・・・ましてや自分の好きな女になれたんだから、儲けもんだよなぁ・・・


自然と視線は自分の・・・いや、 の胸元へと移る。


いやいや、男は多少見られるのと、女が見られるのでは違いが・・・

でも、それって男女差別じゃないか?

考えてみれば、 だってオレの裸を見ている訳だし、少しくらい・・・


「で、出来るかぁあああ!!」

ギリギリの所で思考を打ち切り、気分を変えるべく部屋の外に出る。

だって表向きでは喜んでるけれど、急に体が変わったんだ。

不安に決まっている。


そう思った矢先に、丁度視線の先に とリナリーを見つけた。

リナリーと会話・・・

「なぁ、リナリー・・・オレと仲間の境界線越えてみない?」

「ちょっと・・・どうしちゃったの、ラビ?」

「何言ってんだよ、オレはいつも通りだぜ〜それとも、リナリーのその水晶みたいに澄んだ瞳には違って見えた?」

・・・じゃない!!・・・ナンパ・・・?

オレの体で。

しかもセリフが痛い。


「・・・・・何しとんじゃーーーーーーーーーー!!」

猛ダッシュで駆け寄り、二人の間に割り込む。

そして の脳天をトイレのスリッパで叩きつけた。

「いて!!」

「きゃっ・・・ ?!」

「あっれ、 じゃん」

「何が「あっれ」じゃボケェエエエエ!!!必死に理性と戦ってた自分がアホらしいわ!!!」

「はぁ?!理性と戦う?!まさかラビ、わたしの体に何かしたんじゃないでしょーね!!!」

「してねーよ!!したとしても今のお前のセリフに比べたら痛くも痒くもないわ!!」

「したのか?!したのか?!ブッ殺す!!」

「殺れるもんならやってみやがれ!お前も二度と自分の体に戻れないさ!」

いがみ合うオレらの傍らで「?」マークを浮かべるリナリー。

永遠に続くかとも思われるこの言い合いは、数分後、そのリナリーの殺気に満ちた笑顔でピリオドを打たれる事になる。






「ええ?!入れ替わった?!」

一通り説明をすると、リナリーはオレと を交互に見た。

「どうりで、おかしいと思った・・・」

「やっぱ、おかしかった?」

「ラビにしてはキモい台詞ばっかり言うから・・・」

「・・・・・」

複雑な表情を に、心の底でざまあみろ、と呟いた。

「ごめんね、兄さんが」

「いやいや、言いだしっぺは私だから」

「自覚はあるんだな」

「お黙り。この体でアレンくん襲いに行くぞコラ」

「すいませんでした」

「それでも、そんな危ないもの作った方にも責任があるわ。兄さんにはキツク言っておくから」

リナリーはそう言うと、科学班の元へ去って行った。

「いやぁ・・・リナ嬢はやっぱり良いね」

「・・・・・他に誰をナンパした」

「そう思わない?」

「質問に速やかに答えよ」

「ナンパはリナリーだけだよ。リナリーだったら冗談として受け流してくれそうだったし」

のその言葉に安堵の息を漏らす。

「ただ、ブックマンに労いの言葉をかけたら般若心経唱えられたり、
神田に「心の友よ☆」って言ったら何か可愛そうなものを見るような目で見られたりしただけだって!」


「メチャクチャ酷い事してるな、お前」






を部屋に強制送還したのは言うまでも無い。




































―あとがき―

つ、続きます・・・夢くさくなくて、すいませっ・・・!