「アレン・ウォーカーさん!好きです。私と付き合って下さい!」



見ず知らずの女の子から告白された。

否、されている、の方が正しいのかな。


今、僕は物凄い動揺している。


だって僕の目の前にいる子は、流れるように真っ直ぐな黒髪、大きな青色の瞳、桜色の頬、一見で誰もが魅入ってしまうほど整った容姿の持ち主だ。

そんな彼女に上目使いで見つめられて、ときめかない男は居ないだろう。

事実、僕の心臓も凄い速さで動いている。



でも、その反面「都合が良すぎるんじゃないか」と、もう一人の自分が囁いている。

そうだ。一度も面識の無い、しかもこんな可愛い女の子が急に告白してくるなんて、そんな都合のいい事なんて無い。

もしかしたら罰ゲーム?

・・・いや、もしそうじゃ無かったらそれは凄く失礼なんじゃ・・・?





・・・・・素直になれよ、アレン。

もし罰ゲームだったとしても、おいしい夢をありがとうって事で自分を癒せれるじゃないか。

ほら、虎穴に入らずば虎子を得ず、って言うだろ?



「その・・・僕でよければ」

「本当?!嬉しい!私、アレンさんを始めて見た時から・・・もう、アナタしか居ないって・・・!」

嬉しそうに頬を赤らめ、微笑む。



僕は考えるのを止めた。

ありがとう、神様。

今なら、Lv385702のアクマでも瞬殺できる。

いや、むしろ来い。



「あ、自己紹介してませんでしたね。私、 ・リーって言います」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リーって・・・まさか・・・コ、コココココココムイさんの・・・」

「はい、兄はコムイ・リーです。あとエクソシストのリナリーは姉ですよ」



前言撤回。

ある意味Lv385702のアクマよりも遥かにレベルの高いヤツが居た。

コムイさんのシスコンぶりを知っているから恐ろしい。

死んでもいいって言ったヤツは誰だ。

僕だ。

死んでもいい、じゃない。死ぬんだ。確実に。


























と一旦別れ、これから起こるであろう悪夢に頭を抱えつつ廊下を歩いていると、リナリーの姿が目に入った。

「あ。リナリー、ちょっと!」

「あ!アレン君」

「リナリーって・・・妹とか居たり・・・するんですよね」

リナリーは僕を見ると表情を綻ばせ

から聞いたわ。あの子、すっごい喜んでたよ」

と言った。

リナリーの言葉に顔が緩むが、コムイさんの顔が脳裏に浮かんだと同時に消え去った。

「それで・・・あの、コムイさんは・・・」

「あ、兄さん?兄さんは・・・」

「呼んだかい?リナリー」

コムイさんがリナリーの後ろに突如現れ、思わず声を上げた。

「ぎゃぁああああ!!!ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!僕のせいです!!アイスが値上がったのも僕のせいです!!消費税が3%から5%になったのも僕のせいです!!」

「アレン君、何言ってるんだい?」

怪訝そうな顔つきで僕の顔を覗くコムイさん。

「え?・・・と、 ・・・いや、妹さんの事・・・聞いてないんですか・・・?」

「ああ、知ってるよ」

あまりにも平然と返したコムイさんに、あっけからんとした。

「・・・コムイさんって、シスコンじゃないんですか?」

「うーん。普通ならその直球な質問にブチ切れるべきかなぁって思うけど、そうだよ。リナリーも も僕の大事な妹だけど」

「その・・・僕と の事に関しては何も言わないん・・・ですか?」

はいいんだよ。まぁ・・・それ以上の進展があったらブッ殺すけど・・・」

「大丈夫よ、兄さん。 に限って。ね?」

「そうだね」

「は・・・?」

コムイさんとリナリーの会話の意味が分からなくて、?符号をひたすら浮かべる。

「「アレン君、頑張ってね」」

そう言ってリー兄妹は笑顔で去って行った。

「・・・・・・・・・・・・・・え・・・」



あれ・・・・・むしろ応援・・・される・・・だと・・・?

どうなってるんだ・・・?



「アレンさん!」

急に名前を呼ばれ振り向くと、そこには がいた。

。どうかしたんで・・・」

「・・・部屋に来て貰えませんか?」

「え?」

「あ、急ですいません・・・でも、私。アレンさんの事、色々知りたいんです」

耳まで赤くして僕の顔を窺う



何だか、都合が良すぎて・・・怖いくらいだ。

こんな時こそ慎重に行かないと。

コムイさんの事だ。

何もして来ないハズはない。

慎重に・・・






















の部屋って広いんですね」

「そうですか?あ、散らかっててごめんなさい」



ああ、そうさ!男っていうのはみんなこういう生き物さ!

可愛い子にあんな風に誘われて断られる訳がない!!

所詮この世は開き直った者が勝者なんだ。



「そういえば、 ってどこに所属してるんですか?」

「私ですか?私は科学班です」

「科学班?何か意外だなぁ・・・どういう事をやってるんですか?」

「そうですか?主な仕事は・・・あの通信ゴーレムを作ったりとか、薬を作ったりとかかな。アレンさんはエクソシストですよね」

「はい」

「その左目、アクマの魂が見えるんですよね」

「そうですけど・・・よく知ってますね」

「どういう仕組みで、どうしてアクマの魂が見えるんですか?その白髪、元は別の髪色ですよね。左腕の接合部もすごく興味があります」

?」

彼女は『視神経が・・・網膜が・・・水晶体が・・・イノセンスが・・・』と、しきりに呟きだした。

「くすくすくす・・・私、アレンさんを初めて見たときから、ずっと解剖したいって思ってたの!!」

急に笑い出したと思ったら、なんとも物騒な事をいいながら僕の手を取り、目を輝かせた。

「は、はい?!」

「だって、アクマの魂が見える目、っていう科学的に証明の出来ないようなものなんて凄く魅力的じゃない!!」



今、たった今、コムイさんとリナリーが応援をしていた理由が分かった。

つまりは、こういう事か!!

僕は犠牲者・・・いや、彼女の実験体に見事選ばれた訳だ。

コムイさんの態度といい、何か調子がいいなぁって思ったさ!



「サンプル386948号・・・いや、アレン君のデータは今後の研究に多いに貢献するから!ね!」

「386948号って、一体何人の犠牲者を出してるんですか!?」

「大丈夫、大丈夫!ちょーーーーーっとチクッとするだけだから!!」

「禍々しい程バカデカイ注射器振り回して言える台詞ですか!!!」

そう、 の手にっつーか腕の中には1.5リットルのペットボトルより遥かにデカイ注射器があった。

中には紫色の液体が入っていて、多分これを本当に射されたら死ぬんじゃないかと恐怖した。

「じゃあ滅茶苦茶痛いので覚悟して下さい」

「出来ません。つーか前文の付き合って、ってそういう意味ですか?!」

「だから、最初に言ったじゃないですか☆『付き合って下さい』って」

「言ってましたけどッ!!・・・あれ?でも『好きです』っても言ってましたよね?」

僕がそう言うと、 は途端に手を止めた。

「え?!えっと・・・その、あの・・・それは・・・・・・・その・・・」

みるみる頬を真っ赤に染め上げていく

「・・・好きってのは本当です」

もう一度 の口から聞いたその言葉に照れくささと安堵感を感じた。

「でも、解体したいってのも本当ですよ」

「ちょっ!解体したら死ぬじゃないですか!!言ってる事めちゃ矛盾してますよ」

「メンゴメンゴ。ワタシ中国人ダカラ、言ッテルコトワカラナイアル」

「実際、語尾にアルってつける中国人なんて居ませんよ」

「ゴチャゴチャ煩イアル。大丈夫だよ!死なないようにするから!大好きな人を殺す訳ないでしょう?」

笑顔で僕を確実に追い込む

僕の背中には壁がある。

しかも、ここは の個室。


逃げ場は無かった。





















「ひ・・・酷い目にあった・・・」

結局、血を抜かれただけで済んだものの精神的疲労は激しい。

それでも の喜んでいた顔が見れたから、別にいいかなぁ、と考える自分が憎い。

「アレン君」

名前を呼ばれ、後ろを振り向くと顔と顔の距離がわずか3センチの場所にコムイさんが立っていた。

「コ、コムイさん!!?急に背後に立たないで下さい!!」

「いやー、ごめんごめん。 が喜んでたよ。いいデータが取れたって」

「そ、そうですか・・・」

「あと聞いたよ。 がアレン君に『好き』って言ってたの」

「え・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・覚えてろよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



それだけ言い残すと、コムイさんは僕を追い越して去っていった。


悪夢はまだ終わらない。



































加筆・訂正・・・2011/10/1