清々しい朝。

ベッドから身を起こして、軽く伸びる。


「あれ?靴が無い」

目を軽く擦り、辺りを見回すと、靴はベッドから少し離れた所に揃えて置いてあった。

「・・・・・もしかして・・」

息を呑み、靴を逆さにすると、ザーッという効果音と共に画鋲が靴から流れ落ちた。

「クソッ!!また画鋲が入ってッ・・・!!あのシスコン!!」

そう毒をつき靴を床に叩きつけた。

履く前に気づく量からしてささやかな善意があると思いきや、古典的な嫌がらせである事には変わりはなく、それがまたムシャクシャする。

犯人は分かっている。


教団に入って、2ヶ月。

早くもイジメのターゲットにされて、胃が痛む毎日を過ごしています。





























「おはよう、アレン君」

廊下を歩いていると、 が笑いかけてきた。

前文のイジメの原因であって、それでいて癒しだったりする。




何度かメスで切り裂かれそうになったり、怪しげな液体の入った注射器をチラつかされたりとしたが、何だかんだ言って僕は と付き合っている。

そのせいか、その の兄に当たる室長のコムイさんに陰湿で凶悪な罰ゲームのようなイジメを受けていたりする。

さっきの画鋲もそうだが、任務だとか言ってトイレ掃除をさせられたり、部屋に入った途端にタライが落ちてきたり。

もう一層の事イノセンスで葬ってやりたい衝動に駆られたが出来るはずもなく(なまじっか地位があるのでタチが悪い)毎日のイジメに耐えています。




「・・・おはようございます」

「どうしたの?やつれてるよ」

「はは・・・そう見えます?」

「じゃあ治療しなき「あ、体は滅茶苦茶健康なんで」

「・・・・・・・・・チッ・・・・・・あ、もしかして、またお兄ちゃん?!止めてって何度も言ってるのに・・・ごめんね」

僅かに舌打ちが聞こえた気がしたが、全力で気のせいと思うことにした。

「お兄ちゃん・・・私のサンプルなんだから取らないでって、何回も言ってるのにな・・・」

「・・・え・・・」

「あ、ゴーレムの修理頼まれてたんだっけ」

「え、ちょっ・・・今」

「アレン君、大好きだよ」

「え」

急な の言葉に時が止まる。

「お兄ちゃんにはキツく言っておくから!じゃあ、後でね」

その後姿を呆然を見送る自分。結局、腹いせとなって僕に戻ってくるので、あんまりキツく言わないで欲しいなぁ。



流石コムイさんの妹で、頭の回転が速いからか、いつもこうして話を反らされる。

そしてあれから との仲は全く進展がない。

ほぼ毎日の日課となりつつあるコムイさんのイジメもあるけれど、同時に が上手くかわしているからでもある。

付き合い始めて1ヶ月くらい経ってるはずなのに、未だに手すら握っていないなんて有り得ない。

もしかしたら、ただのモルモットも同然なのでは、と思ったりもするが、彼女の性格上、否定出来ないのが痛い。



それはそうと今日もサンプル発言を軽く、いや、思いっきり上手く丸め込まれたような気もした。

いや、ポジティブに生きよう。気のせい、気のせい。

嘗め回すようなねっとりとした視線を感じるけど気のせい、気のせい。

何か心なしか殺気を感じるけど気のせい、気のせい。

あの白い帽子のあの人が視界の端に居るような気がするけど、気のせい・・・



「あれ、アレン君」


「ぎゃぁあああああああああ!!やっぱり居たぁあああああ!!!!!」

目の笑ってない、いかにも貼り付けたような笑顔で唐突に目の前に現れたのは、コムイさん。

展開がわざとらしいのも、きっと嫌がらせの一つだろう。

「何ナニ?人を化け物みたいにーははははは」

「いっいいいいいいいいいいいいいいいいいいい何時からそこに・・・・?!」

「うーん、正確に言えば6分37秒前だけど、分かりやすく言えば がアレン君に挨拶した辺りかな☆」

つまり全部筒抜けかよ、この野郎!!

「嫌だな〜廊下でイチャついちゃって・・・若いっていいね〜」

「あ・・・はははははは・・・」

「ははははは」

「ははは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぐっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人様の可愛い妹をたぶらかしてんじゃねーよ」

インテリとは思えない程の速さで鳩尾に拳が入り、思わずその場にしゃがみ込む。

「じゃあ、また後でね」

と、今度こそは爽やかな笑みを浮かべて去っていった。





こ、怖ぇえええ!!

現役なのに、前線でアクマと戦ってるのに、動きが全く読めなかった?!!

ある意味アクマより怖ぇええ!!





にかわされている、という事もあるけれど、ぶっちゃけ、一番の敵であり、障害物は彼に違いない・・・





「アレン君!」

後ろを振り向くと今さっき別れたばかりの が血相を変えて走ってきた。

?!どうかし・・・・・・・うぐっ!!」

聞き終わる前に、鳩尾に再び一発入りその場に蹲る。

「どっか調子悪いの?よっしゃ!!悪いんだね?!」

「いや、ちょっ・・・ がやったんで・・・」

「大変!ドドリアさんみたいな顔になってるよ!!」

「どんな顔ですか」

「すぐに手術しないと☆」

そう言ったと同時に は米俵を担ぐように僕を持ち上げた。

何処にそんな力があるのか、その方が僕の白髪や左目よりミステリーな気がしてならない。

「いや、だからどうして、そんなに嬉しそうな顔して・・・って、聞けよ!!」







はそのまま僕を担いだまま走り、一つの部屋に入った。

そこは忘れもしない の自室。



「ここに居れば大丈夫だよね」

何故か安堵の息をついた は僕をその場に下ろした。

「・・・は?」

「あ、ごめんね!何か急にお兄ちゃんが科学班で鬼ごっこしよう、とか言い出したの」

科学班の人たちに心の底で合掌した。

「で、自分は鬼だからアレン君を狩るぞって燃えてて・・・」

「へ・・・へぇ・・・」

「ごめんね。痛かったよね」

そう言って上目遣いをする に鼓動が早くなる。

があのコムイとかいう野郎と同じ遺伝子を所持しているとは思えない。(リナリーと同じ遺伝子という事は大いに受け入れよう)


「・・・それはともかく、 は僕の事避けてないですか?」


「へ?そんな事ないよ」

「コムイさんに妨害されているのもありますけど・・・その、進展がないなぁって・・・」

「そうだね・・・」

はそう言うと僕の右腕を掴んだ。

「静脈の血にも飽きてきたし、そろそろ動脈の血に進展しても・・・」

注射器を懐から出しながら妖艶に笑う。

「え、何ですか?その天才的な勘違い」

「違うの?」

「僕の言ってる進展は・・・」

僕の手を掴んでいた の手を掴み、壁に押し当てる。

「・・・え・・・」

「こっちの方なんですけど」

「ぅええ?!・・・えっと・・・あの・・・」

顔を赤くして目を泳がす

「・・・ は僕の事、好きじゃないんですか?」

「そんな事無いけど・・・だってそういうの恥ずかしいし・・・」

ただ恥ずかしかっただけだという事が分かり、心の中で安堵する。

・・・」

〜見ーつけた☆」

ドアを派手に開けて入って来たのは、説明するまでもなくコムイさん。

「コ、ココココココココココココムイさん?!!!」

慌てて から離れるが、時すでに遅し。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何してんの?」

今度はもう作り笑顔すらしない修羅の顔をしたコムイさん。

「お兄ちゃん!?どうやって入ったの?!外から開かないようにしたのに」

「そんな事どうでもいいでしょ☆それより、今度は が鬼だよ」

「わ、分かった・・・あ、アレン君、また後でね!」

「ちょっ、 !」

「あ、そうそう。アレン君。」

助けを求めようと彼女に手を伸ばすが、コムイさんの一言によって無駄に終わる。

「ちょっと体育館裏まで来てくれないかな」

「え・・・・・い、嫌だなぁ、コムイさん・・・教団に体育館裏なんて・・・」

「いいから来いっつってんだろ」

「・・・・・・・・・・」












―――その後、彼の行方を知るものは居なかった

































加筆・訂正・・・2011/10/1