木々が紅葉に色づき始め冷たい風が頬を撫でる、日曜日の昼下がり。

週休二日制なんて謳い文句があるけれど、帝光中バスケ部のマネージャーをしている私は
土曜日も練習や試合に費やす事も多く、日曜日の完全休暇の日はとても貴重なものだ。

一人、街に出てきて買い物を済ませ、最後に立ち寄ったのはゲームセンター。

時々立ち寄って自分の好きなキャラクターをUFOキャッチャーで取る事がちょっとした楽しみになっていた。



「あ!!かわいい〜!」

早速目当てのキャラクターの大きなぬいぐるみを見つけ、財布の中身を確認する。

小銭がない事に気づき、両替機を探そうと辺りを見回した。

「両替機・・・あ、あった!」

休日だからか混雑する店内を縫うように進むと、誰もいないと思っていた両替機の前で人をぶつかった。

「あ、すいませ・・・て、黒子君?」

相手の顔を見上げると、そこに立っていたのは同じバスケ部の黒子君だった。

さん。一人ですか?」

「うん、クレーンゲーム目当てだし」

「アレですか?」

「そう!取りたいの!」

何で分かったのか黒子君に聞くと、さんのカバンに付いているので、と彼らしい淡々とした口調で言った。

「黒子君は?一人?」

いえ、と言いかけた黒子君の後ろに大きな人影が近づく。



「黒子、遅ぇぞ」

「あれ、っちじゃないスか」



そう言いながら現れたのは、黒子君と同じバスケ部の青峰君と黄瀬君だった。

「青峰君達と一緒だったんだ。珍しい組み合わせだね」

「青峰っちと黒子っちでストバスやってて、その帰りッス」

っちは一人スか?、と独特の口調で黄瀬君が尋ねる。

「何度も言うようだけど、そうだよ」

「友達いねーのかお前」

「いるわ!!ゲーセンに一人でいたからって、そういうのやめてくれる?!」

「違うのかよ」

「友達と来ると、ああいうノリになっちゃうからあんまり行かないようにしてるの」

私はプリクラの機械が立ち並ぶコーナーを指す。



「あれ、何で女だけしか入っちゃいけねぇの?」

「青峰っち、オレと一緒にプリクラ撮らないスか?」

「黄瀬テメェふざけてんのか。死なすぞ」

「つまりはそういう事ッスよ」

「本当は犯罪防止の為らしいよ・・・あ、でも最近のプリクラって凄いよ。撮るとほとんど別人だもん」

目を大きくしたり、元の肌より美白に加工をしてくれるんだよ、と付け加える。

「なんだそれデジカメとフォトショップの複合機かよ」

「あれは顔面詐欺製造機スよ」

「騙されたの?」

「だいたい、現物の人間と違う写真撮って何がいいんだよ」

「写真の修正は大正時代から続く日本の伝統工芸のようなものスからね」



両替機の前で話していた為、従業員の人に注意を受けた私達は場所を変えようと移動を始めた。

ひとまず自販機の前に行こうとすると、黄瀬君が大きなテーブルの前で足を止めた。



「あ、これ懐かしくないスか?エアホッケー」



「へー、ゲーセンにあるんだな」

「久しぶりにやらないっスか?ちょうど4人いるし、グーパーで分かれて」



「ねぇ、負けたチームは罰ゲームにプリクラ撮影とかどう?」



「はぁ?!男だけで入れないんじゃねーのかよ」

「それは私が男としてカウントされてるって事か?・・・あれ?黒子君は?」

「居ますよ」

「うおおおおう!ビックリした!!もう、小説だとちゃんと会話に絡んできてくれないと」

「すいません」

「そういうメタ発言は世界観崩れるから控えて欲しいっス」

黒子君にゲームの事を話し、すんなり了承を得た私達はジャンケンをして2チームに分かれた。

私の相方は黄瀬君になり、相手側のチームは黒子君、青峰君となった。

お金を黄瀬君が入れると(モデルなので一番お金を持っているという理由で)、盤上から空気が流れる。

「行くっスよ!」

黄瀬君がパックを弾く。

「来るぞ、テツ!!」

「はい」

返事をするものの、黒子君の手には何も握られていない。

「って、マレットすら握ってねぇじゃねーか!!」

「あ、これマレットっていうんですか?」

無抵抗の青峰君チームのゴールにパックが落ちる乾いた音が響く。

「オイ、テツ!罰ゲームやりてぇのかよ!」

「いえ。ただ、美白の青峰君を見てみたいな、と思って」

「オイ!!メンバーチェンジを要求する!!お前とはコンビ解消だチクショウ!!」



「ですが、勝負事に負けるのは嫌ですね」



高速で盤上を奔るパックは、黒子君の技であるイグナイトパスを彷彿させる。

「やれば出来るじゃねーか!」

しかしそれは私達のゴールに入るのではなく、外枠に当たり勢いよく黒子君達のゴールへと突き刺さった。

再びカコーン、という乾いた音が鳴る。

「あ」

「テツゥウウウウ!!」

今度こそ黒子君の胸倉を掴む青峰君。

「すいません。今のはマジでワザとじゃないです」

「すごい無抵抗なオウンゴールっスね・・・」

「そもそも僕はパス技以外はズブの素人なんで」

「それはバスケでだろ!!それでも跳ね返りはカットしろよ!!」

「Q(急に)P(パックが)K(来たので)」

「ナメてんのか」



「青峰君、早く打ち返してよ」

「早くしないと時間切れになるスよ」



私達のヤジに、青峰君は舌打ちをするとマレットでパックを挟み、敵陣へと突っ込んできた。

「ちょ、青峰っち?!?!」

「青峰君、自分の陣地で5秒以上持つと反則ですよ」

「それ以前の問題だよ、これは!!」

青峰君のガチで人を殺してしまう程の気迫に、私と黄瀬君は思わずテーブルから後退る。

そして、そのまま私達のゴールへと直接ダンクをした。

「青峰っちズルいっスよ!!」

「オレはダンクしかやらねぇ」

「黄瀬君コピー!今の技コピー!」

「あんなんタダの反則技じゃないスか!!」

「うるせぇ!つけ睫毛!!」

「つけてないスよ!!」

青峰君が自分の自陣に戻ったと同時に盤上に流れる風が止まった。

「あっ、時間切れだ。2対1で青峰君、黒子君チームの負けー」

「ハァ?!」

「仕方ないです、青峰君。潔く負け認める事も大事です」

「てか98%お前が悪いんだからな!!」

「2%は自分が敗因だと認めてしまうんですか」

「例えゲームが続いていたとしても、今のダンクは反則だからね」










*****










罰ゲームは僕も一緒ですから、と黒子君に宥められた青峰君を連れて、私達はプリクラコーナーへと向かう。

もちろん男性のみの入場は出来ないので全員で行く事にした。

コーナーの中は女性客とカップルで賑わっており、4分の3が男、という私達のグループは完全に浮いていた。

しかも青峰君や黄瀬君は180セントを越える大柄な体格をしており、且つ端整な顔立ちをしている。

当人達は気にしていないようだけれども、何故か私の方が居たたまれなさを感じてしまい。

すぐさま空いているプリクラ機を見つけてそこに駆け込んだ。



「壁紙とか設定は適当でいいよね」

「あ、撮り終ったらオレらくがきしたいっス」

「ああいいぜ。その代わり後でお前の顔に直接らくがきさせろよな」



さん」



「ん?どうかした?」

「どうぞ」

お金を入れようとする私の目の前にのぬいぐるみが差し出される。

思わず受け取った後に、黒子君とぬいぐるみを交互に見比べる。

「え、あ、ありがとう・・・」

「いつの間に取って来たんだ?」

「プリクラの前で皆さんが言い合っている間に」

「確かに一言も会話参加してなかったスね」

どこに隠していたんだよ、という青峰君に、鞄の中です、と答える。



ゲームセンターに来た当初の目的なんて私自身すっかり忘れていた。

黒子君の優しさなのか、ただの気まぐれなのかもしれないけれど。

私は、ありがとう、ともう一度お礼の言葉を述べた。



「良かったな、

「青峰君・・・何か綺麗に終わらせようとしてるけど、罰ゲームはやるからね」

「ここで終わりでいいじゃねーか!!黒子夢なんだからこれでハッピーエンドだろ!!」

「え、これ黒子っち夢だったんスか?!相手役なのに影薄ッ!!」

「ハイ、お金入れたから二人とも入ってー」












































「うっわ〜青峰君、目つき悪ッ!!って、元からか」

「殺ス」

「ブッフォ!!青峰っち目ぇデカ!!なんかキラキラしてるし、ディファインしてるんスかこれ?!」

「殺ス」

「てか肌が陶器のように綺麗・・・!!」

「殺ス」

「・・・・・あれ、黒子っちは普通っスね」

「本当だ・・・辛うじて映ってはいるけど・・・影薄すぎて機械が認知しなかったとか・・・?」