控えめにドアをノックする音が部屋に響いた。

「はい?」

返事をしつつドアを開けた瞬間、

「Trick or treat!アレン君☆」

控えめなノック音とは裏腹に派手なシャイニングウィザードが僕の額にめり込んだ。

「げぶら!!」






























「何するんですか!!何かメリッとかヤバイ音しましたよ?!」

「アレン君ノリ悪いなー。今日何の日か分かってる?」

「は?今日ですか?10月31日ですけど・・・何かありました?」

「今日はハロウィンだよ」

「ああ、そういえば・・・」

「思い出した?」

「はい、極貧生活時代(修行時代含む)に食料調達のために周ってました」

「そ、そっか・・・大変だったんだね・・・」

「慣れればどって事もなかったですよ」

「じゃあハロウィン活動は慣れてるんだね!行こうか」

「へ?」

「今までは食料調達の為だったけど、今年は純粋に楽しもうよ。ね?」

「え、行くんですか?!」

「当然」

そう言って笑うと、 は僕の手を引っ張り、走り出した。










「誰の所から行くんですか?」

「そうだね・・・」

「あ、リナリーはどうですか?」

「アレン君の所に行く前に貰って来ちゃった」

は手持ちの篭の中に入ってあるお菓子を僕の前に見せた。

「今からラビの所に行くよ」

「居るんですか?」

「今日の為に誰が任務で居ないのか、誰なら居るのか調べておいたから」

「そのやる気を任務にも活かして欲しいんですけど」

「なーに言ってんの!楽しいイベントにこそ全力を尽くすべきでしょ?ラビー!開けろー!居るのは分かってんだぞコラ!!」

何か根本的に間違っている、と突っ込みを入れる前に はラビの部屋のドアを殴り始めた。



「あれ? にアレン?どうかしたんさ?」

怪訝な表情で部屋から出てきたラビ。

「3つ数える間にお菓子を出せ。イタズラするぞ」

どこから出したのか、実銃をラビの眉間に押し入れる。

「は?!!ちょっ・・・何?!脅し?!」

「ほら、早くしないとこの銃口がラビにイタズラしちゃうゾ☆」

「いやいやいや!!イタズラじゃ済まないから!!死ぬから!!」

「何ナニ、何なの?!!オレ何かしたさ?!!ゴメン、何かしたなら謝るから、ゼロ距離射撃は止めようぜ!!?」

「お菓子出したら開放しよう。つーか、さっきからお菓子って言ってるじゃん」

「出すから!お菓子出すからしまって!!お願い、しまって!!」

「本当?出してくれるんだったら、早くしてね☆」










「ラビ、結構お菓子持ってたね」

先ほどよりボリュームの増えた篭を覗き込んで は満足気に微笑んだ。

「強盗じゃないですか」

「そんな事はないよ」

「そもそも、Trick or treat、ってすら言ってないですよ」

「意味は同じでしょ☆次は誰にしようかな〜・・・・・って、都合よく神田の所だね」

「いや、この場合は都合悪いって言うんじゃ・・・」

「Trick or treat!コラ、前髪パッツン野郎!とっとと食うもんよこせよ!」

は神田の部屋の扉を叩き出した。

「って、何してんですか!!三枚下ろしにされますよ!!」

「反応ないな〜あ、鍵開いてんじゃん」

「ちょっ! ?!何、黄泉への門を開こうとしてんですか!!」





「あれ、寝てる」

「・・・・・今の騒ぎで起きないっていうのもまた凄いですよね」

「神田ー。Trick or treat」

神田の耳元で が呟いたが、本人は全く目を覚ます兆候は見せない。

「・・・・・・・・よし。イタズラ決行。アレン君、サインペン取って」

「何するんですか」

そう言いながらも の手に名前ペンを渡す。

「名前ペンでイタズラって言ったらコレしかないでしょ」

は楽しそうに口元を吊り上げると、神田の額に「肉」と書いた。

「ブッ!!肉・・・!肉・・・!!」

「お約束だよね〜」

、僕にも貸してもらえますか?」

「いいよ。あ、ねえ眉毛濃くしようよ」

「いいですね〜あ、瞼に目、書いちゃえ」

「そうそう、髭!これ書かなきゃ駄目だよ」

「あ、動かないで下さいよ、神田」

動き出した神田に指摘をする。

「そうそう。大人しくメイクされ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「「・・・・・あ」」

「テメェら・・・楽しそうだな、オイ」

10月31日。僕は、神田くんと目が合いました。(驚愕のあまり描写が乱雑)

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・あはは・・・グッモーニン、神田」

「Trick or treat、ですよ神田」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」





次の瞬間、教団内に轟音が響き渡った。





「ぎゃぁあああああ!!殺される!!マジで殺される!!!」

「だから部屋に入るのやめようって言ったじゃないですか!!」

「アレン君だって楽しんでたでしょー?!!」

「待てコラ!!ブッ殺す!!!」

「コムイさーん!!ここに貴重なエクソシストを消そうとしてる人がいる!!」





数時間に及ぶ神田とのデスレースを教団内で繰り広げた僕たちは、イタズラはほどほどにしなければならないという教訓をその身に焼き付けたのだった。









「はぁ・・・はぁ・・・何とか撒いたね」

「つーかハロウィンでマジ逃げしたの、初めてですよ・・・」

「あ。そういえば、アレン君からまだお菓子貰ってないよ」

「え?冒頭のアレって有効なんですか?」

「当たり前じゃん」

驚く僕に は淡々とそう答えた。

「えー・・・お菓子・・・お菓子・・・」


自分の部屋なら、まだお菓子があったかもしれない。

でも今は手持ちの荷物も全く無い、手ぶらの状態だ。

ポケットをまさぐる僕の様子を見て、 は薄く笑う。


「無いんだったらイタズラしちゃうよ」

の言葉に、あのラビと神田のラクガキを鮮明に思い出した。

「え?!ちょっ・・・あともう少し待って下さい!!」

「ブー!とっくにタイムアップでーす!」

「えええ?!あともう少し待っ・・・」

待って下さいよ、と言い切る前に頬に柔らかい唇の感触を感じた。

数秒間目を白黒させていたが、何が起こったのか理解したと同時に、頬を手で覆った。

僕の今の顔は真っ赤だと思う。

「・・・イタズラなんかじゃないんですけど」

「そう?じゃあ別のイタズラ考えるけど?」

「いえ、こっちのがいいです」

そう言って と顔を見合わせて笑った。







その後、彼女と別れた僕の背中に『浮かれお祭り野郎』と書かれた紙が貼ってある事をリナリーに指摘され、ハロウィンの本当の恐ろしさを噛み締めるのだった。






























加筆・訂正/2016/5/6