「
」
「どうかされましたか、シェザンヌ様」
「部屋に飾る花を買ってきてくれないかしら?」
「はい、喜んで!」
ファブレ家の奉公人である以上、雇い主の命令には絶対服従。
今日のお仕事はシェザンヌ様が喜ぶようなお花を手に入れる事です。
「・・・花言葉とも照らし合わせた方がいいよね」
そう思い、足を運んだのは書斎。
「えーと・・・花言葉ー花言葉ー」
流石ファブレ家の書斎となると本の数も莫大なものだ。
・・・前から思ってたんだけど、これだけあれば図書館が開けるんじゃないかなぁ
「あ!あった・・・・・けど・・・・高いなぁ・・・」
本棚の高さも通常の大きさではなく、目的の本は自分の身長で届く範囲からギリギリ外れた場所にあった。
よし、と自分で気合を入れ、背伸びをする。
が、何度も手が本の前で空振りをする。
「〜〜〜!あともう少しなんだけどなー」
「何やってんだ?」
「ほぐぁ!?」
突然掛けられた声に驚いて本棚に勢いよく激突した。
「痛ッ!!」
「・・・何おもしろい事やってんだよ・・・」
「ガイがいきなり声掛けるからでしょ?!」
「あのなぁ・・・まぁいいけど・・・どの本取ろうとしてたんだ?」
声の張本人のガイは、そう言いながら私の隣に立った。
「え?」
「取れないんだろ?このまま見てても面白そうだけど」
「私は面白くない!・・・あの花言葉の本」
「了解・・・ホラ」
ガイは右手をやや上げてその本を取った。
「・・・ありがとう」
取ってもらった事に礼を言うと、ガイから本を受け取った。
決定的な伸長差を見せ付けられて、軽くショックを受けたけど・・・
「花言葉の勉強でもするのか?」
「ううん。シェザンヌ様にお花買ってくるように頼まれたんだけど、花言葉も重視しようかなぁって」
「へぇ・・・花言葉ね」
本のあった場所の隣から別の花言葉の本を本棚から引き抜くと、適当にページを捲るガイ。
「花にだって一輪一輪、それぞれ意味があるんだから」
「
の花はこれだよな」
ページを捲る手が止まると、そのページを私の前に見せた。
「何なに?・・・タンポポ?・・・・・・花言葉は・・・軽率・・・ガイ!!!」
怒りに任せて思わず本棚を叩いた。
その瞬間、本の雪崩が私たちを襲った。
「・・・これでも否定するか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しません」
「まぁ・・・事の発端は俺だから片付けは俺がやっとくよ」
ガイが片付けようと本を拾い集める。
「え?!いいよ、言葉通り軽率な行動を取ったのは私なんだし」
それを遮るように手を差し出した。
「さ、触るな!!」
「・・・!」
怒鳴るような声に驚いて手を引っ込めた。
「あ・・・と・・・その・・・」
「ご、ごめんね・・・!女性恐怖症だったよね・・・」
それにしては物凄く拒まれた気がするけれど・・・
「私、お花買ってくるから・・・片付け任せちゃっていいかな・・・?」
「あ、ああ・・・」
「本当にごめんね」
それだけを言い残すと、私は逃げるように書斎から飛び出した。
花言葉を選びながら見つけた花は、シェザンヌ様は喜んで下さった。
いつもは嬉しいはずなのに私の心は晴れなかった。
そんな気持ちのまま、次の日の朝を迎えた。
「・・・一応、もう一回謝っておいた方がいいよね」
昨日のガイの様子を思い出してそう呟いた。
心が晴れない理由は分かっているんだから
そう思考を馳せていると扉を叩く音が耳に届いた。
「はーい・・・」
扉の向こうにはガイが立っていた。
「
、その・・・」
ガイは何かを言おうとしていたけれど、反射的に扉を閉めてしまった。
その行動により余計、気まずい空気が流れる事になる。
「・・・昨日はごめん」
「き、気にしなくていいよ・・・!!」
こんな態度とられたら余計に気にするっつーの!!
自分の心境に自分自身で一つ一つ丁寧に突っ込みを入れる。
「書斎に来る前にメイドの子達に絡まれて・・・それで無意識に気が立ってたみたいで・・・だから、別に
に触られるのが心底嫌だった訳じゃないからな」
足音が遠ざかったのを扉越しに確認して、ゆっくりと扉を開けた。
その瞬間、扉のすぐ隣に花が置いてあるのに気付く。
「アイリス・・・だっけ・・・?」
花を拾い上げ、机の上に置きっぱなしの花言葉の本を開く
「花言葉は・・・」
”あなたを大切にします”
私は財布を握って部屋を飛び出した。
「ガイ!」
屋敷の中庭を歩いていたガイを呼び止めた。
「
?」
「部屋に居ないから探したよ」
ガイは目を丸くして私を見つめた。
「さっきはごめんね。何か咄嗟に閉めちゃって・・・と、あと書斎の時の事もごめんね」
「いや、俺の方こそ・・・」
「何か謝ってばっかりだね。お花、ありがとう。これはお返し」
私はそう言ってガイに一輪の花を渡した。
「ヒマワリ?」
「うん」
「ヒマワリの花言葉って・・・」
「な、内緒!!」
恥ずかしさに耐え切れず、私は走り出した。
「いや・・・知ってるんだけどな」
”あなたをみつめる”
僅かに頬を紅く染めたガイは彼女の後姿を見て静かに呟いた。
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花言葉はネットで調べました、愚か者です。
ヒマワリは熱愛や慕愛という意味もあるそうで。