「はぁ・・・はぁ・・・」



あがる息を堪えて、私は走る。



「はぁ・・・ここまで来れば・・・!」



周囲に誰もいない事を確認すると私は安堵の息をついて、その場に座り込んだ。





と、陽気な声と同時に肩を叩かれ

「ぎゃぁああああああああああああ!!!」

座ったまま後ずさった。



「イ・・・イイイイイイイイイイオン・・・様・・・!」



私の肩を叩いたのは我等がローレライ教団の導師、イオン様。

そして私が今逃げている理由の張本人だ。



「嫌ですね、 。僕と の間じゃないですか、僕の事は「お兄ちゃんv」と呼んで下さい」

v(ハート)がポイントです、と誰もが和む笑顔(私は断じて和まない)で言い切った。

「辞退さして頂きます」

「そうですか・・・」

「あ・・・」

明らかに落胆したイオン様に、思わず何とも言えない罪悪感が私を満たした。



そこまで落ち込むとは思ってもいなかった・・・



「じゃあ「あにぃ」でいいです」

「根本的な解決になってません」



「大体、私とイオン様は義理の兄妹であって、本当の兄妹じゃな・・・」

「だったら「お兄ちゃま」でも構いませんよ」

「聞けぇええええ!!大体さっきからシスプリの呼び名ばっかりじゃないかぁあああ!!」































私とイオン様は義理の兄妹だったりする。

ローレライ教団員だった私の両親が他界してしまい、一人になってしまった所をイオン様の提案で、彼の妹として引き取られた。

詠師トリトハイムや大詠師モースは反対したが、導師勅令という反則技を使用して今に至る。

立派な職権乱用である。



「もぅ・・・勘弁してくださいよ、イオン様」

「何をですか?」

「あの、都合のいい記憶喪失ですか?」



けれど、イオン様に叶うはずもない恋心を抱いていた私は複雑ながらも嬉しかった事を覚えている。

数回しか面識のなかった私が、イオン様の意識に少しでもあったという事実が嬉しかった。



「冗談ですよ」

「ですよね〜」

「前作のレジェンディアでは妹がヒロインですし、「お兄ちゃん」は全然問題ありません」

テイルズが妹属性を後押ししてくれます、と私の肩を叩いた。

「え?全然人の話聞いてないじゃないですか」



例えちょっと天然でも・・・



「だって、今ダアトで流行っているのでしょう?その、萌え系ですか?妹属性が」

「・・・・・・・はい?」



思いがけないイオン様の言葉に思わず思考が止まる。



「違うのですか?折角モースから教わったんですけど、無駄になっちゃいましたね」



モース様の趣味か・・・!!

否、モース様の突っ込みはどうでもいい。

もしかして・・・その・・・流行に合わせて私を引き取った・・・とか・・・?



「萌え時代の馬鹿野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

?!?!」



思考が行き着く頃には、私は走り出していた。


















ほぼ無意識に走り、たどり着いた場所は大聖堂だった。

正面に飾られてあるステンドグラス。

太陽の光を浴びて、赤や青とさまざまな色が聖堂の床に映し出される。



いつもはそんな幻想的な模様に関心をもつけれど、今はその統一性のない彩りに苛立ちを覚えた。



一刻ほどそれを眺めていると扉が開かれる音が聞こえた。



、探しましたよ」

「イオン様・・・」

言葉の節々で僅かに息が上がっているから、そこら中を探し回ってくれたのだろう。

罪悪感と共に、嬉しさが込み上げる。

「・・・イオン様は・・・」

「兄君さまがいいです」

「・・・イ・オ・ン・さ・ま・は!どうして私を義妹として引き取ったんですか?」



本当に妹ブームだとかそんな理由だったら嫌だ、でも有りえそうだ、と思いながらも疑問を口にした。



「だって、 が妹になればいつまでも一緒にいられるでしょう?」



イオン様の言葉に一瞬心が軽くなったけれど、すぐに心と共に表情が曇る事になる。



「・・・いつまでも一緒には居られないですよ」

私の言葉にイオン様は小首を傾げた。

「だって、いつかはイオン様、結婚・・・とかして誰かのものになっちゃうでしょ・・・」

「ならないですよ」

「そんな事ないです。イオン様ちょっと天然と変態入ってるけど優しいし・・・」

「すいません、一部分だけ文字フォントが小さくて聞き取れなかったんですけど」

「気のせいです」



「僕は今も、この先も だけのものですよ」

翡翠の瞳を柔らかく細めたイオン様がゆっくりと私の方に歩いてくる。

「逆に、 も僕のものですけどね」

イオン様はそう言うと私の頭を撫でた。

「その為に僕の妹になってもらったんですから」

イオン様はそう言って、私の大好きな微笑みをみせた。

「・・・そんな導師、聞いた事ありませんよ」

私もつられて笑い返した。

「そうですね、僕もないです」




















「あ、まだ に一度も呼んでもらってないんですけど」

「何をですか?」

「お兄ちゃんって」

「べ、別にいいじゃないですか・・・しかも結構ピンポイントな呼び方ばっかりだし・・・」

「少し、呼んでもらいたかったんですけどね・・・」

「え・・・」



悪夢到来の予感がした。


































―あとがき―

妹に恋してねぇ・・・!いや、してるけど、義理の妹じゃ意味ないような気が・・・
一応補足を・・・シスプリ→シスタープリンセス