事の発端はアニスのたった一言。


ってガイばっかり見てるよね」


その言葉にムキになり、アニスを追いかけている途中、足を滑らせ川の水面にこんにちわ。





結果、


「38度2分」

「結構ありますわね」


私は見事次の日、熱を出す事になった。

































「それにしても、どうして川に落ちたの?」

「それはね〜」

ティアの質問に答えようとするアニス。

「のぁーー!アニス、ストップ!ストップ!」



「何?

「お願いだから真実は言わないで・・・!」

二人にありのままを伝えようとするアニスにそう耳打ちをする。

、モノには頼み方ってあるよね〜?」

「・・・・・アニスさん、お願いですから止めて下さい。今度ケーキ奢りますから」



「どうかしたんですの?」

私とアニスの様子にナタリアが怪訝な表情をする。

「ううん、何でもないよ〜あのね、私のトクナガが川に落っこちちゃって、 が取ろうとしてくれてたの」

「それで川に落ちたのね」

「まぁ、そうだったんですの」

「あはは・・・」

少しだけ良心が痛んだのは言うまでも無い。










ティアとアニスがお粥を作ってくる、と言って部屋を離れた。

それから数分もしない内に扉を叩く音が耳に届いた。


、大丈夫か?今そこでティアとアニスに聞いたんだけど」

「よっ! 、川に落ちて熱出したんだってな」

ガイとルークだった。

「あら?ジェイドは?」

「ああ、旦那は部屋に篭ってるよ。それより、体の調子はどうなんだ?」

「だ、大丈夫!熱がちょっと出てるだけだから!」

昨日のアニスにからかわれた内容を思い出し、ガイから目を逸らした。


ってガイばっかり見てるよね』

・・・そんな、意識して見てた訳じゃないんだけどな・・・


ふとルークの腕に抱えられている緑色の球体が視界に入った。

「ルーク、何持ってるの?」

「ん?ああ、スイカ」

ルークはスイカを私の目の前に突き出した。

「何でスイカなんですの?」

「よく見舞いに果物とか持ってくるだろ?」

「いや、ナタリアはスイカの意味を聞いてるんだと思うけどな・・・」

「え?デカイ方がいいだろ?」


いやいやいやいやいや・・・!!デカければいいとは限らないけれど・・・?!


、食うか?」

「じゃ、じゃあ・・・折角だし・・・」

「俺は食べやすいように皿とスプーン借りてくるよ」

ガイはそう言って部屋から出て行った。

「まかせたぜ、ガイ!よ〜し!今割ってやるからな!」

「ありがとう〜・・・・・割って・・・?」

スイカをベッドの前の床に置き、目隠しをしだすルーク。

「・・・あ・・・あの・・・ルーク・・・?」

嫌な予感が私の中を駆け巡る。

「一回やってみたかったんだよな〜スイカ割り!」

どこから持ち出したのか、バットの素振りをしだすルーク。

「いやいやいや、ちょっ・・・待っ・・・!」


わ、割られる・・・?!!!


「待ちなさい!ルーク!」

ルークに向かって声を上げたのはナタリア。

「ナタリア・・・!」

彼女が女神に見えた瞬間だった。

「全く・・・貴方という人は・・・非常識にも程があります!!」

「な、なんだよ〜」

「スイカ割りをするんでしたら、その場で最低10回は回らないといけないじゃないですの?!」


えぇぇええええええ?!!


訂正、彼女が堕天使に見えた瞬間だった。

「そうだっけ?」

「そうですわ。さぁ、10回まわるのです」


何だ、この貴族メン達は?!!


熱のせいで頭がクラクラして、ロクな突っ込みが果たせないせいで、状況がおかしくなっていく。

「ねぇ、ちょっとナタリア・・・?」

「どうかしまして?

「いや、あの・・・危なくない?色々・・・」

「10!回ったぞ〜ナタリア、 、ミュウ!誘導してくれよ!」

「分かってます」

「ご主人様のお役に立てるよう、頑張るですの!」


アレ・・・?!!ミュウ(危険人員)が増えてる・・・?!


私の思考をよそに、スイカ割り大会が始まる。

「右ですわ、ルーク!」

「も〜と右ですの!」

「こっちか?」

「そのまま真っ直ぐです」

「頑張ってくださいですの!」

スイカは私ベッドの前。

ふらつきながらも、ゆっくりと、バットを構え、私の所へと詰め寄ってくるルーク。

「あともう少しですわ」

ナタリアとミュウはルークの背後の方にいるからか、私とスイカの距離をつかめていない。

「ここか?」

「え、ちょっと前過ぎ!!」

「少しくらい当たりが外れても大丈夫だって!」

「そうじゃなくて!」

このままバットを振り下ろせば、確実に私に当たる。

避けようにも、熱のせいで動けそうに無い。

「・・・・・!!」

私は両手で頭を守るように構えると、目をつむった。



・・・・・


・・・・・・・・


いつまで経っても何の衝撃も来なく、不思議に思いゆっくりと目を開ける。


「ルーク・・・何してんだ?」

「?その声・・・ガイか?」


「・・・・・ガ、ガイ・・・?」


ガイがルークのバットを掴んでいた。

、大丈夫だったか?」

「あ、うん・・・奇跡的に」

「ナタリアにミュウも・・・普通に考えてみろ。部屋の中でスイカ割りなんかやっていい訳ないだろ」

「言われてみれば・・・確かに非常識ですわね・・・ごめんなさい」

「ごめんなさいですの・・・」

「・・・あと少しで に当たってたぞ」

珍しく怒りを露にするガイ。

「え・・・?!ご、ごめん・・・

目隠しを取って私に頭を下げるルーク。

「結果的に当たらなかったんだし、いいよ」

?!お前あと少しで本当に当たってたんだぞ?」

「ちょっと怒る気力もないし・・・治ったら覚えててくれれば、今はそれでいいから」

「けど・・・」

ガイの言葉を遮るようにノックの音が鳴った。

「お粥出来たよ〜ん・・・って・・・何やってんの?」

アニスが怪訝の表情で私たちに訊ねる。


私に向かってバットを構えたまま硬直するルーク。

そのバットを掴むガイ。

足元にはスイカが置かれている。


思わず状況を聞きたくなるのは分からなくもない。


「えっと・・・これは・・・」

私が説明をする前に、ティアは無言のまま部屋に入り、ベッドの隣のサイドテーブルにお粥の乗ったトレイを置くと

「・・・説明してくれるわよね?ルーク」

「テ・・・ティア・・・」

ルークを引っ張って部屋の外に出て行った。


ファブレ公爵の息子の断末魔のような叫びが街全体に響き渡ったのは言うまでも無い。










「・・・・・」

「・・・・・」

「何なに?結局何が起こったの?」

「いや・・・ちょっと一悶着・・・」


「さっきから騒々しいですねぇ〜」


場の空気に合わない、軽い口調で部屋に入って来たのはジェイドだった。

「あ、大佐だ」

「部屋に篭って何をしていたんですの?」

が熱を出したと聞いて、特製の栄養剤を・・・」

「結構です」

「おや、どうしてですか?」

「ド緑じゃないですか、それ」

「深緑は聞いた事がありますが、ド緑は始めて聞きましたねぇ」

「大佐〜何かボコボコ言って・・・」

「アニース!!大人の事情に口出ししてはいけませんよ」

「いやいやいやいやいや!!それって生命活動に関わる大切な事じゃないですか?!!」

「旦那・・・」

「おやおや、ガイまで疑いの眼差しを送るんですね・・・折角 の為に作ったんですけど・・・」

ジェイドはそう言って影を落とすと、哀愁に満ちた目で私を見た。

「う・・・!!・・・・・・・・・・じゃあ・・・少しだけ・・・」

「飲んでくれますか?まだ生き物で実験した事がないので丁度良かったです」

「やっぱりいいです!!!」

「・・・冗談ですよ」

「ジェイドが言うと全く冗談に聞こえないんですけど」

「ボコボコいったりしてますけど、本当にタダの栄養剤ですから食後にでも飲んでおいて下さい」


タダの栄養剤がボコボコなど奇妙な音を発するはずがない・・・!!


ジェイドはそれだけ言い残すと「風邪を伝染されたくないので」と言い、私にしっかり恐怖を植え付けて去って行った。


「あ、そうだ。ガイ達も伝染っちゃうからいいよ」

「でも・・・」

「大丈夫、お粥食べたら・・・ジェイドの薬・・・飲む勇気があれば飲んで、ちゃんと寝るから」

「確かに、私達が居た方が、 も休み辛いでしょうし・・・」

「本当に大丈夫か?」

ガイはそう言って私の顔を覗き込んだ。

心臓が勝手に早鐘を打つ。

「う、うん!大丈夫・・・」

私のその言葉を聞くと、アニス、ナタリア、ガイは部屋から出て行った。





私は一息付くと、ティアとアニスが作ってくれたお粥を食べて、ジェイドの薬を気合と根性で飲み干し、布団に入った。





ってガイばっかり見てるよね』


アニスの言葉が頭の中を駆け巡る。

私とガイはファブレ家の奉公人をしていたから、付き合いは長い。


私がガイを見てるって・・・アニスから見て、そう見えただけだと思うけど・・・でも、どうしてあんなにムキになって追いかけたんだろう。





答えが見つからないまま、私の意識は深い眠りに入っていった。















どの位、眠ったんだろう。

思い瞼を開けると、オレンジ色の夕陽が窓から差し込んでくるのが分かる。

おそらく夕方だろう。


眠る前より幾分か体が軽い。

悔しいけれど、ジェイドのあのド緑の薬が効いたのかな。


そう思いを馳せながら、ゆっくりと体を起こそうとした時


「おはよう、


聞き覚えのある声に驚いた。

「うぇ?!ガ、ガイ!?何で居るの?!」

心臓がバクバク五月蝿いのは驚いたからだけじゃない、と思う。

「いや・・・ が心配で」

本を閉じて、苦笑をしながらガイはそう答えた。

「風邪伝染っちゃうよ?」

「いいさ、別に。 の風邪だったら喜んで伝染されるよ」

「あ、あのねぇ・・・」

「・・・それに、好きな子の心配は誰だってするもんだろ?」

「え?」

ガイの顔が赤くなっていたのは、私の風邪が移ったからでも、夕陽のせいでもないだろう。



そうか。無意識の内にガイの事を見ていたのって、私が無意識の内にガイの事が好きになってたから。

どうして、こんなに簡単な事が分からなかったんだろう。



「・・・ずるい・・・私が考えてても分かんなかった事なのに」

「え?」

「私も、ガイの事が好きだよ」










後日、私はすっかり調子を取り戻した。

ルーク・フォン・ファブレ氏は、また断末魔の叫びをあげる事になったのは言うまでも無い。











「今度は俺が治さないといけないよな」

「何を?」

「女性恐怖症」

「そうだよねー・・・」

「でも一番の特効薬が居るから案外すぐ治ったりな」

私を見ながら口元に笑みを浮かべるガイ。

「・・・何それ」

恥ずかしくなって顔を背けた。





そういう事をサラリと言いのけるガイは、ある意味私にとって毒かもしれない。



































―あとがき―

あんまりガイ夢っぽくなくなったような・・・
そして、おそらく一番の被害者はヒロインと見せかけてルークかと。(誰も助けてくれないし)