「ロイドさん、お店の掃除終わりましたよ」

少女――が再度男の名を呼んでみる、がしかし。

一向に返事もなく、怪訝に思い休憩所を覗き込むと。



「・・・寝てる」



この店の店長――ロイドが安らかな寝息をたて、ソファにもたれかかっていた。

テーブルにはシーザー・カエサル・エンペラーとその部品があり、ロイドの手にはドライバーが握られている。

メンテナンスの途中で眠気に襲われてしまったのだろう、辺りを片付けられた形跡もなく、
彼の眼鏡の奥の翡翠は閉じられていた。



店の経営から料理まで怠る事なくこなすロイドにしてはうたた寝とは珍しいものだ、とは思い巡らす。



「あ。このままだと風邪引いちゃう」

は奥の部屋からブランケットを引っ張り出して来ると、ロイドを起こさないよう静かにかける。

その時、の視界にロイドの眼鏡が映った。



「・・・どうして眼鏡を外すと性格が変わるんだろう」



このロイドという男は片言の日本語を話すのだが、眼鏡を外すとどうした事が標準語になり
性格までもが荒々しく豹変する。

しかも無精ひげまでこさえるとは不思議極まりないのだが。



は豹変するロイドに対し苦手意識を抱いていた。

普段の温厚なロイドに慣れているせいもあるが、一転した暴力的な態度に畏怖してしまうのだ。



そんな大事な眼鏡が壊れてしまうといけないので、外そうとロイドの顔に手を伸ばす。



「こうして見ると、ロイドさんって格好いいのかも・・・」

眼鏡が外されたロイドの顔を、まじまじと見やる。

アッシュグレイの髪に深緑の目に、スラッと伸びた長身。

日本人から見た外人とは得てして颯爽としている偏見があるが、一際ロイドは整った顔をしている、とは思う。



窓から茜色の陽が差し込み、ロイドの髪を朱に染める。

きらきらと揺らめくそれは焔のようで、触れると溶かされてしまいそうだった。



「な、何やってんだろ・・・店番しなきゃ」



我に返ったは紅潮した顔を隠すように俯き、踵を返した。
























の足音が遠くなった頃、ロイドが自身の髪を乱雑に掻き上げた。

「・・・眼鏡返して行けよ」

そう呟いた彼の頬も夕陽と同じ色に染まっていた。