「鬼ごっこ、やりませんか?」

旅先の町で突然イオンがそう言い出した。

「イオン様?」

「いえ、さっき町の子達が楽しそうにやっているのを見て・・・」

思わず聞き返すアニスに、少し俯きながら照れくさそうに答えるイオン。





そういえば昔も鬼ごっこなんかやったよな。


ルークと、俺と同じ奉公人の と。


確か、今から5年程前の事。















「鬼ごっこしようぜ!」


「「鬼ごっこ?」」

ルークの急な提案に、俺と は目を白黒させた。

「鬼ごっこって・・・この屋敷の中で?」

「だって屋敷から出れねーし」

ルークはそう言って口を尖らせた。


誘拐されて以来、まだ12歳なのに屋敷の外に出る事を禁じられているルーク。

まだ遊びたい盛りなのに、公爵も酷な事をすると思う。


「いいよ!何か面白そう」


はルークとそう歳は変わらないからか、快く同意をした。


「・・・多数決には従うよ」


それに対して俺とルークの歳の差は4年。

16歳になって、鬼ごっこをするとは思わなかった。





「何か特殊ルールいれようよ」

中庭に出ると、 がそんな提案をした。

「例えばどんな?」

「うーん・・・貴族風に捕まえる時はお札で殴るとか!」

「激しく嫌だから却下」

「蹴鞠で捕まえるとか」

「何でやねん」

「あ!捕まえるごとに一首詠むとか!」

「貴族から離れろ」

永遠に続くようなボケと突っ込みの攻防戦に、俺が仲介に入る。

「そうだなぁ・・・鬼は全員捕まえるまで鬼とかは、どうだ?」

「えー・・・何か地味だぜ」

「地味とか言うな」

「まぁ、それでいいじゃん!ガイの存在みたいにシンプルでいいと思うよ」

「褒めてるのか、貶してるのかハッキリしろ」


俺は数分後、この自分の提案したルールで苦しむ事になる。





「「「ジャンケンポン」」」

お決まりの掛け声が中庭に響く。

ルークと がチョキを出し、俺がパー。

「ガイが鬼だね」

「じゃあ、ちゃんと100秒数えろよ!」

「はいはい」

目を瞑って1から数を数える。





「・・・99・・・100・・・!さて、行きますか」

「ガイ頑張ってー」

「ああ!全員捕まえて・・・・・あれ?」

ベンチに座って俺に激励の言葉を送る

「何で居るんだ・・・?」

「だって、別に逃げなくてもガイには絶対捕まらないから」

「・・・・・・・・・・・・あ」

そこで初めて自分が女性恐怖症であった事を思い出す。


・・・考えてみたら、俺、ルークは捕まえられても は捕まえられないじゃないか・・・


「だから、頑張って!」

「・・・・・今、捕まえたって事とか・・・駄目かい?」

「却下します☆」

「なら、どうすれば・・・」

「ガイが私を捕まえてくれれば、いいじゃん」

「だから、それは無理だって・・・」

「じゃあ約束してよ。女性恐怖症が治ったら、私の事、捕まえてくれる?」





結局、その時はいつまで経っても捕まえに来ない俺にルークがキレたため中止。

そして何故か蹴鞠をする事になり、屋敷の窓ガラスに3枚ほど大きな風穴が開いてしまい、ラムダスの修羅の顔を拝む事になって終わった。















「私は全然構いませんよぉ〜ねぇ、皆もやろうよ」

アニスがそう言うと、

「私はいいよ」

は快く同意をした。

「俺も入るよ」

「しょうがねーなぁ・・・数が少ないとつまんねーだろうから、オレも」

それに続いて俺とルークがメンバーに入る。

「私は・・・遠慮しておくわ」

「私も」

ティアとナタリアは、先に宿で待っている、と言って俺達の輪から外れた。

「じゃあ、大佐は?」

「私が無邪気に鬼ごっこをしている姿を見たいですか?」

「「「「「いいえ」」」」」

ほぼ全員が同時に答えた。

「ジェイドが鬼ごっこって聞いただけで邪気しか感じないから、駄目だよね」

〜後で覚えておいてくださいね〜」

「よーし!ジャンケンで鬼決めよう!」





ジャンケンの行方は数回のあいこの結果、俺が鬼になった。

「ガイ、ちゃんと100秒数えてよ!」

「分かってるよ」

にそう返事を返すと、目を閉じて数を数え始めた。





「98、99、100・・・!」

100秒キッチリ数え終わると、その場から駆け出した。

時々ルークの服の裾が見えたりしたが、構わずに走る。



女性恐怖症が治った今なら、5年前の約束が果たせるから





「げっ・・・!」

は俺の姿を見ると、踵を返し明後日の方向に走り出した。

「体力的に不利な女性を狙うのは、紳士的じゃ無いと思うんだけど?!」

「まー、まー、気にすんな☆」

「気にするわ!!メッチャ気にするわ!!つーか、輝く笑顔が怖いんですけど!!」

笑いながら追いかけるな、と叫びながら俺から必死に逃げる

「何?!ガイのご飯に、さり気なく私の嫌いなもの避けたから?!それとも、寝てる時に額に「肉」って書いたから?!だから笑顔で怒ってるの?!」

「へー、そうか だったんだな、アレ」

「違うの?!」

「それは後でじっくり話をしようじゃないか」

「話す事は何もありませーん!」

話し(叫び)ながら走る内に、俺と の距離は着実に縮まっていく。

そして、やがて の腕を掴んだ。

「捕まえた」

「お、お助けーーー!!!」

「これで約束守れたな」

「え?」

「ちゃんと女性恐怖症も治したぞ」

「お、覚えてたんだ・・・?」

こそ」

恥ずかしそうに視線を泳がせる

「じゃ、じゃあ次は私が鬼だね!」

俺が手を離した事を確認すると、気まずそうにゆっくりと距離をとっていく。



「は、はい!!」

「逃げるなよ?」

君が捕まえろって言ったんだから、そう付け足すと、今度こそ顔を真っ赤に染め上げ走って行った。

そんな彼女の後姿を見て、思わず口元が緩んだ。



どんなに逃げても、逃がさないけど

























(title:鬼ごっこ)