、俺と結婚しよう!」



ありきたりな子ども同士の約束。

相手の男の子は誰もが名の知れたアイドル来栖翔。

かたやその相手の女の子はと言うと、ただのOL。



幼い頃は同じ保育所に通い、同じように育った仲なのに
気がつけば私と彼は全く別々の道を進んでいた。

人生とはそういうものだ。



彼は持ち前の明るいキャラでいろんなテレビ番組に引っ張りだこで、
CDを出せば必ずオリコンに入る。

華やかな芸能界で活躍するトップアイドル。



比べて私は、毎日決まった時間に家を出て会社へ向かい。

ちょっと嫌味な上司に、仲のいい同僚がいて、時々お付き合いの合コン。

夕食後の晩酌がささやかな楽しみ。



幼馴染同士で明暗が分かれたと言われればそうなのかもしれないけれど
私はそれなりに今の自分に満足していたりする。



今日は五日ぶりの休日で、缶酎ハイ片手に撮り溜めしてあるドラマを消化していた。

週休二日制という制度は企業様に勤めている一般人の特権なのだ。



液晶画面の向こうでは男性アイドルが恋人とのすれ違いに葛藤している。

名前は確か、一ノ瀬トキヤだったっけ。

よくテレビに出ているのを見る。

芸能人というのは大変だ。

労働組合もない、定休日もない彼らは一体いつ休んでいるのだろうか。



そんな事を考えながら酎ハイの缶を傾けていると、携帯から着信を知らせる音が鳴った。



「もしもし」

『あ、か?』

「そうだよ。相変わらず忙しそうだね、翔ちゃん」



今や別世界に生きる彼は、もうただの他人かと思いきや
幼馴染のよしみで気まぐれに連絡を寄こしてくれる。

勿論、誰にも口外してはいない。

アイドルと知り合いだなんて、他人に知られでもしたら面倒な事になるに決まっている。



『今、何してるんだ?』

「んー、撮り溜めしてるドラマ見てる。一ノ瀬トキヤが主演のドラマなんだけど」

確か、翔ちゃんと同期のアイドルだったはずだ。

『せっかくの休日に一人で寂しくねぇの?』

「うるさいな。たまには一人の時間が必要なんですー」



通話をしながら手元のリモコンでドラマを止める。



「あ、翔ちゃん。この前のバラエティ見たよ。アイドルなのに体張りすぎじゃない?」

『今時、アイドルだって体張らねーと仕事なんてないってーの』

「アイドルも大変だねぇ」

『まぁな。そうだ、お前今、家にいるんだよな?』

「そうだけど?」

『俺、もうすぐ生放送の番組に出るんだよ』

「て事は本番前?」



リモコンの再生停止ボタンを押してチャンネルを回す。

この時間帯で生放送の番組といえば限られてくる。



『そういう事。番組名は・・・』

「あれでしょ。芸能人が何か告白してくヤツ」

『そう、それそれ!』

「へぇ。翔ちゃん何を告白するの?」

『まぁ見てろって。あ、もうすぐスタジオ入るから、じゃあな!』



そう言って、一方的な内容の通信は一方的に切られた。



それから数十分後、予告通りテレビに現れた彼は冒頭と同じセリフを全国ネットで大告白をするのだった。