ちゃん!出前お願い!」

「はーい!」










攘夷戦争に巻き込まれて父と母は私と幼い弟と妹を残して他界。

通っていた寺子屋も中退して、兄妹達を養うためにアルバイトに励んでおります。

頭が悪かったから寺小屋を止めた事は全然悔いは無い。

寺小屋に通ってた頃の私はいつも成績はビリ。

両親にいい顔一つさせてあげれなくて辛かった。

今のアルバイトも出前とかで走り回ってるからキツいけれど、別に苦だと思った事はなかった。

むしろ、そうやって働いて得られる誰かの喜ぶ顔が、嬉しそうな顔が、笑顔が嬉しかった。










「いつもの万事屋さんですか?」

店長から岡持を受け取りながらそう聞く。

「ああ、今日は違うよ」

「ですよね。毎回毎回ツケですもん。じゃあ、何処に?」

「新撰組屯所の沖田さん」

「新撰グミ?お菓子製造業者ですか?」

「違う違う。ここ最近よく注文してくるんだよ」

「へぇー・・・どういう所なんですか?」










「えーと・・・新選・・・新撰組ー・・・新撰組の沖田さんはー・・・」

受け取った住所の書いてあるメモと周りに建ち並ぶ建造物を見比べながら歩く。


店長に聞いた所、新撰組屯所というのは武装警察の人達が住んでいる所らしい。

ハッキリ言って、気が重い。

別に悪い事なんてしてないんだけど、警察という場所は居心地の悪い所だと思う。


このまま迷った事にでもして帰っていいかなぁ、と思うものの、『新撰組屯所』という看板を見つけてしまった限りそうはいかない。

岡持をしっかりと握り締めて、息を一つ吐き、門を叩いた。


「ごめんくださーい」


・・・無反応


「ごめんくださーい!」


・・・無反応


「ごめんください!!」

「うるさい」

「ぐがっ!!!!!」


瞬間、扉が開けられ見事扉の板と顔面衝突。


「いっだ!!ちょっ!ヒロインの扱いとは思えないくらい出血が容赦無いんだけど?!!!」

唇を切ったらしく地面に鮮血が滴り落ちる。

「あ、いけね。出前取ったの忘れてた」

口元を押さえ、声のする頭上を見ると、目の書いてあるふざけた眼帯を首に掛けた金髪の男の人が居た。


うわ・・・格好いい人だな・・・


って、ちょっと待てよ!私!!自分に対して危害を加えた張本人に何考えてるんだよ!!ボケ!!


血が落ちるのを構わずに頭を振って、思考を消す。

「あらら。岡持ごと掛け蕎麦がひっくり返ってらァ」

そして、その人はマイペースに私と共に吹っ飛んだ蕎麦がはみ出てる岡持を見下ろしていた。

「それはアナタがイキナリ扉開けたからッ・・・」

「今すぐ新しい蕎麦持って来て下せェ」

「って、聞けぇええええええ!!!!」










「何なんだアイツは!!つーか本当に警察なのかよ?!」

結局また店まで戻らされて新しい蕎麦を運び終えた私は、岡持をカウンターに置きながら吐き捨てるように言った。

一瞬でも「格好いい」だなんて考えた自分が憎い!実に憎い!

「確かに蕎麦を台無しにしちゃったのは私だけど・・・だけど・・・だけどさ!扉を思いっきり開けてぶつけた事、謝ったっていいじゃん!!
オマケに後から鼻血が出てくるし・・・町の笑いものにされたよ!!コンチクショウ!!」

「あ、おかえり ちゃん」

私の声を聞きつけたのか、店長が厨房から出てきた。

「ただいま店長。ごめんなさい、蕎麦こぼしちゃって・・・」

「いいよ、いいよ。それより大丈夫?口切ったんだって?」

「あ、はい。もう血も止まったし大丈夫です」

「そっか、良かった」

「それにしても、あの人!謝りもしないんですよ?!信じられます?!」

「時々そういう理不尽なお客さんもいるんだよ。今日は怪我もしてるし、出前に出なくていいよ」

「いいんですか?!ありがとうございます!」

「その代わり、明日からまた頑張ってね」

「はい!」



店長はこんなにいい人なのに。

同じ男でも全然違うよ。

まぁいいや。今日の嫌な事は忘れて残りの仕事をこなそう。

そして明日からまた頑張ろう。

うん、そうしよう。つーかそれが一番いい。




















―――――次の日

昨日の事を忘れ、いつも通りの仕事をこなす。


「ただいま!出前行って来ました!」

「おかえり ちゃん!帰って早々で悪いけどまた出前お願い!」

たった今入ったんだろう、電話を受話器に置きながら店長が言った。

「はいはーい!何処の誰ですか?」

「新撰組屯所の沖田さん」



それを聞いた瞬間、手に持っていた岡持をその場に落とした。










「ご苦労でさァ。ここの掛け蕎麦が最近マイブームで」

「はぁ・・・それはどうも」

今度は起きていたのか、扉と正面衝突は避けれたものの、この目の前の男への殺意で今は一杯だ。

「じゃあ、器はまた取りに来ますんで分かりやすい所に置いといて下さい。では、私はこれで・・・」

用だけとっとと済まして帰ろうとした時、金髪の憎いアンチクショウが私を呼び止めた。

「七味唐辛子、持ってないですかィ?」

「は?持ってないですけど・・・」

「俺は掛け蕎麦は七味唐辛子が無いと食べれないんでさァ」

「昨日食べてたじゃないですか」

「っつー訳で、今から1分内で店まで取りに行って下せぇ」

「人の話を聞けぇえええええええ!!!!!しかも1分内って普通に考えて無理だろ!!」

「客に冷めた掛け蕎麦食わせる気ですかい?」

「そういうアンタはバイトいたぶって楽しいのかよ!!!」

「早く行かないと、蕎麦の器が変わり果てた物に生まれ変わりますぜ。ホラ、いーち、にー・・・」

「落とす気か?!つーか落とすのかよ!!畜生!!!」


結局、また全力疾走で店と屯所を往復するハメになった。





・・・何だアイツは!!

一生懸命働いてる人間に対して、これは無いんじゃないの?!!

すました顔してあの野郎・・・!!!!!

憎い・・・!!あの・・・何だっけ?そうだ!沖田だ!!おのれ沖田・・・!!!!!

次に会ったらあの顔に大好きな掛け蕎麦かけてやる!!!




















―――――また次の日



もう流石に蕎麦にも飽きるだろう。

いくら好きなものでも、たまに食べるからいいのであって、毎日食べれば飽きてしまうもの。



「今日こそ、来ないよね。もう3日目なんだし」

そう言いながらテーブルを拭いていると、電話が鳴った。

ちゃん!少し手が放せないから、電話でてくれる?」

「はーい!・・・もしもし、田村食堂です」

厨房から聞こえた店長の声に返事をし、電話を取った。

『注文してもいいですかィ?』

「はいはい。大丈夫ですよー。場所はどこですか?」

『新撰組屯・・・』

ガチャン

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・ヤツだ・・・またあの悪夢が・・・!!!

そういえば今の声も聞き覚えのある声だった。

だからそれ以上は聞くまでもなかった。


ちゃん、今の電話何だった?」

「へ?!あ、イタズラ電話です!」

「何か注文っぽく無かった?」

「いえ!全然!閻魔大王から・・・いや、サディスティック星の王子のイタズラです!茶目っ気タップリなんです!!関わらないほうが一生の為ですよ!!!」

そう言った瞬間、また電話の音が鳴り響いた。

「・・・あ」

電話の受話器から湧き出る嫌な予感を感じ、店長に助け舟を求めるが「出ろ」という視線で切り落とされる。

「・・・・・も、もしもし」

『さっき急に電話が切れたんだけど、回線が悪かったんですかねぇ』

「あはは・・・宇宙怪獣ステファンが町の中を徘徊してたんじゃないんですか?ははは・・・」

『意図的というか、明らかな悪意が感じられたぜィ』

「気のせいですよ。いや、全力で気のせいと思ってください」

『まぁ、それはどうでもいいとして。また頼みたいんですけど』

「申し訳ないんですけど・・・今、出前に出れる人間が居ないんですよ」

後ろの方で店長が「ちょっと待て」だとか「普通に居るじゃんよ」とか言っているが、ここは無視。


ここは是が非でも諦めて貰いたい所。

むしろ電話を一回、強制終了してしまった手前、今ノコノコと出前なんざ行ったら何をされるか分かったもんじゃない。


『出前はアンタの仕事じゃないんですかィ?』

「それが店の方が忙しくて・・・」

『今、この時間に客は居ないと思うんですけどねぇ』

「うるせー。忙しいっつったら忙しいんだよ」

確かに時計はお昼時をとうに過ぎた時間を指している。

『ほうほう・・・客に向かってその態度はいい度胸でさァ』

「うッ!!」

『まぁ、忙しいなんざ俺の知ったこっちゃあないし、持って来いよ』

「は・・・あの・・・」

『持って来いよ』

ガチャン


それだけ言うと、今度は向こうから電話を切られた。





その時、何となく感じた。


私はぶっ殺される・・・・・と。


そして覚悟を決めた私は店長と「逝ってきます」「逝ってらっしゃい」という言葉を交わした。





たかだか出前に行くのに、どうして生命活動の危機を感じなきゃいけないのか・・・

もう一層の事この岡持ごと屯所の入り口前にでも置いて退散しようかな・・・


そんな私の浅知恵というか悪知恵をアッサリ打ち砕くように、サド沖田(たった今命名)は入り口の扉に凭れ掛かっていた。

「・・・・・・・・・・・・・・遺言でも残しておけば良かったかなー・・・」

「待ちくたびれたぜ、 さん」

「あはははは。それはどうも申し訳ないですねー・・・って、何で私の名前知ってるんですか」

「出前の電話をした時に店長さんに聞いたんでさァ」

「そうですか・・・それはともかく、蕎麦。ちゃんと持ってきましたよ」

「俺は別に蕎麦は頼んでないですぜ」

「・・・・・は?」

予想も全くしていなかった言葉に岡持をその場に落とす。

「蕎麦、だなんて一言も言ってないですぜ」

「・・・じゃあ、また私は嫌がらせにあったって事かぁ・・・っていうか、出前でもないのに呼ばないで下さいよ!」

「用も無いのに呼んじゃ駄目なんですかィ?」

「当たり前ですよ!あーもう!人をおちょくって!!」

岡持を拾い上げ、踵を返す。

「俺は出前以外で さんと会いたいんですけどね」

「は?あの・・・よく話が掴めないんですけど・・・」

サド沖田の意外な言葉に思わず足を止める。

「鈍いなぁ。つまり、俺は さんが好きだから付き合って欲しいって言ってるんでさァ」

自分の顔が赤くなっていってるのが分かる。

「年頃の娘が岡持片手に大股で走り回って、散々コキ使われて可愛そうかと思えば本人は嬉しそうに笑って、また走り回ってる。
そんな さんを見て俺は・・・」

「・・・・・」

「馬鹿にしてやりたいなァって」

「ああ、もうお前はサドの申し子だよ。コンチクショウ」

約10行程前の自分を激しくブン殴ってやりたい、と思ったのは言うまでも無い。

「まぁ、断っても無駄ですけどね」

「結局、選択肢は無いんじゃないですか。っていうか、じゃあ何で「取りに戻れ」とか「七味唐辛子持って来い」とか言ったんですか?」

「愛情表現、愛情表現」

「痛いわ!!!」





私の受難は、まだまだ続きそうです。

































―あとがき―

沖田さんの口調が分かんない〜!!
何か気づくと同じような語尾ばっかり繰り返してる・・・
あと小説の内容もあんまりまとまって無くてすいません!