「友達の話なんだけど」
この手の話の切り出し方は、大方、自分の事であったりする。
そう言って訪ねて来たのは、私も医者としてよく出入りをしている新撰組の幹部である藤堂平助君だった。
「そいつのすごく気にかけている人がさ、なんだか元気がなくて」
彼の言う気にかけている人、とは土方さんの小姓である千鶴ちゃんだろう。
平助君は隠し事が苦手というか、すぐに顔に出る。
千鶴ちゃんを気にかけている事は言わなくても私達に伝わってくるのだ。
「元気づけてやりたいんだけど、は何をしてもらえたら嬉しい?」
千鶴ちゃんは、表向きは男として振る舞っているが、立派な女の子である。
それも真面目で謙虚、優しさの中に芯の強さを併せ持っている。
例えて言うのなら、根の強い桜のようだ、と思っている。
そんな彼女の事をひとしきり考えて、私は口を開いた。
「そうですね―――」
*****
「斎藤さん、どうかしたんですか?」
「・・・・・いや、なんでもない」
稽古で怪我をしてしまったから手当してくれ、と斎藤さんが訪ねてくるまであれから一刻も経たなかった。
斎藤さんは平助君とは正反対で寡黙だ。
しかし今日の彼は無言の質が違う。
手当が終わったのにも関わらず一向に立ち去ろうともしない上に、
どうかしたのか尋ねても返事はどこか上の空。
傷が痛む、ようには見えない。
手当に不備があった、とも窺えない。
残る可能性は―――
「―――何か私にお話ししたい事があるんですか?」
「・・・何故、分かったのだ?」
斎藤さんは驚いた顔をしているが、今日の斎藤さんほど分かりやすい人はそうはいないと思う。
その表情だけで肯定してしまったのも同然だ。
「・・・平助が来ていただろう」
「ええ、お友達の相談で」
「俺も相談があるんだが」
「私でよろしければ、お聞きしますよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
暫く沈黙が流れる。
下を向いて、時折、私の様子を窺うかのように視線を泳がす斎藤さん。
暫くそうした事を繰り返していたが、意を決したのか私の目をまっすぐに見つめる。
「俺の友人の話なんだが―――」
「その友人は無愛想で寡黙な性格で」
「好意を寄せている相手がいるんだが、その性格故、その相手に会いに行くのすら口実がないといけない」
「はそんな男の事を、どう思う?」
斎藤さんはぽつりぽつりと胸の内を連ねていく。
彼がこんなに饒舌に話す姿は初めて見た。
「ねぇ、斎藤さん。口実ってどんな口実なんですか?」
「話を逸らさないでくれ」
「どう思うのかを答えるのに必要な質問なんです」
「―――怪我をした、とかそんな口実だ」
「ご友人の方は、その人のどんな所が好きになったんですか?」
「それも必要な質問か?」
「ええ」
「真面目な性格で、よく笑う所だ。それと、少し意地が悪い所がある」
「そうなんですね」
「相談しているのは俺だ。も答えてくれ」
そう言って真剣なまなざしを私に向ける。
「そうでしたね。私はその無愛想で寡黙な所が可愛らしいと思いますし―――とても、好きですよ」
「本当か?!」
斎藤さんは身を乗り出して私の手を握った。
「無愛想で寡黙なご友人が、ですよ?」
「そ、そうだったな」
私の手を握っていた事にようやく気がついた斎藤さんは慌てて手を離す。
斎藤さんの真っ赤な顔が可愛らしく思い、私が小さく笑うと更に顔を赤くさせた。
「仮に―――仮に、その男が想いを告げれば、その想いは叶うと思うか?」
「ええ、きっと叶いますよ」